体性感覚系の障害に起因する神経障害性疼痛はしばしば慢性に経過し、QOLを著しく損なうことから積極的に治療を行うことが求められている。しかしながら、本疾患の病態分子基盤には不明な点が多く、現状の疼痛治療は効果が十分とはいえない。一次感覚神経は神経障害性疼痛の主要な原因部位であり、同部位における遺伝子発現変化は疼痛の大きな要因となっている。ホメオボックス遺伝子に属する転写因子であるDorsal Root Ganglia Homeobox (DRGX)は、発生期において侵害受容性の一次感覚神経の生存に必須であり、DRGXの欠損により侵害受容神経が脱落することで、痛みの鈍麻を引き起こすことが報告されている。しかし、発達後の侵害受容神経におけるDRGXの役割は未だ明らかになっていない。そこで本研究では、神経障害性疼痛に対するDRGXの関与を検討することを目的とした。神経障害性疼痛モデルとして、雄性ラットの第5腰髄(L5)神経を結紮したSNLモデルを作製した。L5後根神経節におけるDRGXのmRNA発現量を定量PCR法により測定すると、神経障害後早期から持続的に減少していた。In situ hybridizationにより、DRGXは主に侵害受容性神経を構成する小型から中型の神経細胞に多く発現していたが、神経障害によりその割合が減少することが明らかになった。さらに、血清型6アデノ随伴ウイルスベクター(AAV6)の微量注入により、一次感覚神経特異的にshRNAによるDRGXの発現抑制を行うと、健常ラットの痛覚閾値が低下した。一方で、SNLモデルラットの一次感覚神経にDRGXを遺伝子導入すると、神経障害性疼痛が緩和された。また、DRGX欠損マウスの前脳で発現変化が報告されている遺伝子群のうち、疼痛との関連が知られている遺伝子の発現がSNLまたはDRGXの発現抑制により後根神経節で上昇していた。さらに、それらの疼痛関連遺伝子のSNLによる発現上昇はDRGXを遺伝子導入することで抑制された。以上の結果より、DRGXは一次感覚神経において痛覚関連遺伝子の発現を制御することで、神経障害性疼痛に寄与していることが明らかになった。

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