幼少期に受けるストレスは青年期以降に見られる不安、抑うつ、統合失調症、ADHDなどの精神疾患に似た症状をもたらすという報告から、幼少期ストレスが青年期以降の精神行動に大きな影響を与えると考えられる。そこで本研究では、マウスモデルを用いて、幼少期ストレスが青年期以降の行動に与える影響、また統合失調症やうつ病のなどの主な治療標的部位である海馬の機能変化について調べることを目的として検証を行った。
幼少期ストレスとして、仔マウスを金網上で飼育し、環境的貧困を模倣した。このストレス負荷を生後2日目から9日目まで1週間与え、生後30日目と60日目での行動評価を行った。強制水泳試験を行ったところ、生後30日目において、幼少期ストレスマウスは通常マウスと比べ長時間泳ぎ続け、過剰な行動を示すことが明らかになった。一方で生後60日目においては、幼少期ストレスマウスは通常マウスと泳ぎ続ける時間は同じ程度であった。次に生後30日目での海馬の機能に生じる変化について調べた。幼少期ストレスマウスは通常のマウスに比べ、海馬歯状回における神経細胞の増殖、生存が促進すること、また神経前駆細胞、未成熟神経、成熟神経への分化が促進される傾向にあることが明らかになった。
これらの結果から、幼少期ストレスマウスは生後30日目において、ストレス環境下で過剰な行動をとること、また生後30日目の海馬歯状回における神経の増殖、生存、分化は、幼少期ストレスによって促進されていることが明らかとなった。しかし、行動の変化と海馬の機能変化がどのように関わっているかは不明である。今後、行動評価として強制水泳試験に加え、不安評価、記憶力評価、社会性評価を行うとともに、海馬における遺伝子変化について、神経栄養因子、ストレス関連遺伝子、炎症関連遺伝子などに着目して解析することによって、行動の変化と海馬の機能変化がどのように関わっているかを明らかにしていく。また生後60日目における海馬歯状回の神経細胞の機能変化について検討を行うことで、生育段階によって異なる行動変化を示した原因の検証を行う。

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