日本の医療で用いられる薬は、西洋薬と漢方薬に分けられる。多くの西洋薬は単一の有効成分しか含まないため、症状や器官に対する特異性が高い。一方で、漢方薬は複数の有効成分から構成され、広範な症状に対応する。しかし、薬草から構成される漢方薬の中には、特定の薬理作用を示すものも存在する。例えば、シナノキ(linden)、オレガノ(oregano)、タイム(wild thyme)、フキタンポポ(coltsfoot)、セイヨウカノコソウ(valerian)を成分とする漢方薬は、in vitroの実験系で抗溶血作用を示す(Aralbaeva et al., Biomed Pharmacother, 2017)。また、ラベンダーのにおいには、ラットにおける鎮静作用があることも知られている(Shaw et al., Phytomedicine, 2007)。このように薬草の薬理作用が報告されている一方で、薬草による中枢の神経活動への作用を詳細に調べた知見は少ない。
本研究では、複数の薬草から新規の薬液(linden, , 35%; mulberry, 21%; lavender, 20%; butterfly pee, 20%; holy basil, 4%)を調製し、その薬液と生理食塩水をラットの腹腔内に投与した。各薬液の投与後、ラットにオープンフィールドを探索させ、探索中の脳皮質電図、筋電図、心電図を記録した。脳皮質電図は嗅球、一次体性感覚皮質、一次運動皮質からビス電極を用いて記録した。筋電図と心電図はワイヤー電極を用いて記録した。ラットの行動を覚醒時と睡眠時に二分して解析した結果、薬液を投与した群では生理食塩水の投与群と比べ、一次体性感覚皮質の脳皮質電図の低周波数帯(0.5-3 Hz)の強度が有意に高かった。今後は、このような神経活動の変化のメカニズムや、脳領域間での応答性の差異について検討をおこなう。

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