臓器壁を構成する平滑筋細胞は機能的ドメインごとに特徴的な収縮応答することが知られるが、それを特徴づける機序についての知見は限られている。より効果的な治療薬や診断薬を開発したり、臓器壁の運動障害がもたらす「平滑筋病」病態を理解するためには興奮収縮連関を定義する細胞内シグナル経路を理解しなければならない。今回我々は、α毒素またはβエシンを用いて限定的にスキンド処理を行い細胞膜電位変化の影響を取り除いたマウス回腸と膀胱壁平滑筋組織を用い、これら組織に特徴的な一過的収縮応答の分子機構を検討した。スキンド組織をpCa>8.0からpCa6.0の溶液に移すと、張力の発生は約30秒後に頂点を迎えた後に速やかに弛緩した。[Ca2+]が一定であることから、この一過性の収縮応答はカルシウム感受性の変化を示す。そこで、薬理学的手法を用いスキンド組織内のMLCKとMLCP(ミオシン軽鎖キナーゼとホスファターゼ)活性を継時的に測定した。収縮の頂点と弛緩後を比べると後者ではMLCK活性が著しく減少していたが、MLCPの活性には有意な変化が見られず、最大収縮後に起こるMLCKの継時的な不活化が平滑筋の一過性収縮の原因であることが明らかとなった。MLCKの不活化とそれに伴う一過性収縮応答は過剰量のCa2+、またはCaM添加によって消失した。MLCK不活化にはATPが必要であり、不活化に伴いMLCK Ser815のリン酸化が検出された。従って、MLCKのリン酸化に伴うCaM結合親和性の低下が一過性収縮の要因と考えられる。MLCKをリン酸化するとされるCaMKII, PKA, AMPKや脱リン酸化するとされるCaNの阻害剤は収縮の一過性に影響せず、MLCKの継時的不活化には未知のキナーゼ・ホスファターゼ経路が関与していることが示唆された。ルブラトキシンで処理すると収縮の一過性が増加したことから、PP2Aを介した経路がMLCKを脱リン酸化していると思われる。シンポジウムでは新たなキナーゼ経路を含めてMLCKを介した平滑筋収縮制御機構を議論したい。

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