精神疾患の患者数は近年増加しており、そのなかでも特にうつ病の患者数の増加が顕著である。うつ病の治療はイミプラミンの登場以来、抗うつ薬による薬物治療が基本である。イミプラミンをはじめとする三環系抗うつ薬の治療効果は、セロトニン及びノルアドレナリン(NA)トランスポーター阻害作用による脳内モノアミン濃度の増加によりもたらされると考えられている。脳内モノアミン濃度の増加の一部は、α2-アドレナリン受容体(α2-受容体)拮抗作用によりもたらされる可能性も示唆されている。その一方で、三環系抗うつ薬は、抗コリン作用に起因する口渇や尿排出機能障害を出現させるという問題が指摘されていた。この欠点を改善するため、これらのトランスポーターや標的受容体に対する選択性をより高め、抗コリン作用を軽減した各種抗うつ薬[選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬(SNRI)、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)]が登場したことにより、口渇や尿排出機能障害などの副作用の発生頻度が有意に減少するという期待が寄せられた。そこで、当教室では、モルモット膀胱平滑筋を用いてアセチルコリン(ACh)誘発性収縮に対する影響を検討することにより、各種抗うつ薬が尿排出機能障害を引き起こす可能性を検証することにした。その結果、三環系薬や四環系薬のマプロチリンに加え、NaSSAであるミルタザピンにも臨床用量範囲内でACh誘発性収縮に対する有意な抑制作用を見出し、抗コリン作用に起因すると考えられる尿排出機能障害を引き起こす可能性が示された。一方、抗うつ薬のうちNAトランスポーター阻害作用をもつものは、交感神経終末と尿道平滑筋間のシナプス間隙でのNA量を増加させるため、尿道平滑筋の収縮力の増強と尿道抵抗の増大により尿排出機能障害を引き起こすと考えられる。さらに、α2-受容体拮抗作用を有する抗うつ薬は、交感神経終末からのNAの遊離を促進するため、尿道抵抗を増大させる可能性がある。本発表では、膀胱平滑筋の収縮機能に対する影響に加え、尿道平滑筋および精管平滑筋の収縮機能に対する各種抗うつ薬の影響を検討し、それらが尿排出機能障害を誘発する可能性とその機序について検証したので、その結果を報告する。

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