糖尿病患者ではうつ病や不安障害といった精神疾患の罹患率が高いことが報告されているが、その発症メカニズムは不明である。これまでに当研究室では、streptozotocin (STZ) 誘発糖尿病マウスにおいて恐怖記憶が増強することを報告している。恐怖記憶には扁桃体や海馬のグルタミン酸神経が関与し、特にAMPA受容体が重要な役割を果たすことが報告されている。したがって、STZ誘発糖尿病マウスにおける恐怖記憶の増強には、扁桃体や海馬のAMPA受容体の機能変化が関与する可能性が考えられる。そこで本研究では、STZ誘発糖尿病マウスの恐怖記憶の増強に扁桃体および海馬のAMPA受容体が関与するか検討した。実験には4週齢のICR系雄性マウスを使用した。糖尿病はSTZ (200 mg/kg, i.v.) により誘発した。また、対照マウスにはクエン酸緩衝液を投与した。恐怖条件付け試験を行った結果、STZ誘発糖尿病マウスでは対照マウスと比較してすくみ行動持続率が増加した。次に、STZ誘発糖尿病マウスの扁桃体または海馬にAMPA受容体拮抗薬のNBQXを微量注入したところ、STZ誘発糖尿病マウスにおけるすくみ行動持続率の増加は抑制された。そこで、扁桃体および海馬に注目し、AMPA受容体サブユニットの一つであるGluR1およびSer 845部位がリン酸化されたGluR1 (pGluR1) のタンパク質量をWestern blot法を用いて検討した結果、STZ誘発糖尿病マウスの扁桃体および海馬においてpGluR1のタンパク質量が有意に増加した。GluR1のSer 845部位はprotein kinase Aの触媒サブユニット (PKAc) によってリン酸化されることが報告されていることから、PKAcおよびその活性化体であるリン酸化PKAc (pPKAc) のタンパク質量を測定した。その結果、STZ誘発糖尿病マウスの扁桃体および海馬においてpPKAcのタンパク質量が有意に増加した。最後に、STZ誘発糖尿病マウスにPKA阻害薬のH-89を脳室内投与したところ、STZ誘発糖尿病マウスにおいて認められたすくみ行動持続率の増加はH-89により減少した。以上の本研究の結果より、糖尿病時には扁桃体および海馬のPKAの活性が増強することによりAMPA受容体の機能が亢進し、恐怖記憶が増強することが示唆された。

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