糖尿病は様々な合併症をひき起こし、日常生活が困難になることが問題となる。糖尿病患者では精神障害の罹患率が高いことが報告されている。精神障害の一因として、社会性の低下による他者とのストレスや関係性の低下が挙げられることから、糖尿病患者では社会性の低下により精神障害を発症する可能性が考えられる。一方、視床下部には様々なペプチド神経が存在し、これらは全身のエネルギー状態の変化により活性が調節される。その1つであるneuropeptide Y (NPY) 神経は全身のエネルギー低下により活性化し、摂食行動を促進させる。また、NPYは社会性行動にも関与する可能性が指摘されている。糖尿病時には全身のエネルギー状態が大きく変化することから、視床下部のNPY神経の活性が変化することで社会性が低下する可能性が考えられる。そこで本研究では、1型糖尿病モデルであるstreptozotocin (STZ) 誘発糖尿病マウスにおける社会性行動の変化に脳内NPYが関与するか検討した。実験には4週齢のICR系雄性マウスを用い、糖尿病はSTZ (200 mg/kg, i.v.) により誘発した。Social interaction testにより社会性行動を測定した結果、STZ誘発糖尿病マウスでは対照マウスと比べて社会性行動の低下が認められた。次に、視床下部におけるNPY mRNA発現量を測定した結果、対照マウスと比べてSTZ誘発糖尿病マウスではNPY mRNA量が有意に増加した。そこで、NPYが社会性行動に関与するか明らかにするため、NPY Y1受容体とY2受容体の作動薬を未処置マウスに投与し、社会性行動を測定した。その結果、Y1受容体作動薬の [Leu31, Pro34]-neuropeptide Yを脳室内投与しても社会性行動は変化はしなかったものの、Y2受容体作動薬のneuropeptide Y 13-36 (NPY 13-36) の脳室内投与により社会性行動の低下が認められた。また、NPY 13-36による社会性行動の低下は、Y2受容体拮抗薬のBIIE 0246を前処置することによって改善した。以上の本研究の結果より、NPYはY2受容体を介して社会性行動を低下させることが示された。また、糖尿病時にはNPY神経が活性化し、Y2受容体を刺激することで、社会性行動が低下することが示唆された。