糖尿病は慢性的な高血糖状態を主徴とする疾患であり、主に1型と2型に大別される。高血糖状態が長期間続くと様々な合併症をひき起こすため、血糖値を正常にコントロールすることは糖尿病治療において非常に重要である。血糖調節は末梢組織のみならず中枢神経によっても制御されることが示唆されているが、中枢神経による血糖調節の詳細には不明な点が多い。当研究室では、中枢のドパミンD2受容体が血糖調節に関与することを報告している。そこで本研究では、中枢のドパミンD2受容体による血糖調節の機序を明らかにするとともに、糖尿病時に中枢のドパミンD2受容体による血糖調節機構が変化するか検討した。まず、6週齢のICR系雄性マウスにドパミンD2受容体作動薬のquinpiroleを脳室内投与したところ、対照マウスと比較して有意な血糖値の上昇が認められ、この作用はD2受容体拮抗薬のl-sulpirideにより抑制された。次に、中枢のドパミンD2受容体刺激による血糖上昇作用に肝糖産生が関与するか検討した結果、quinpiroleの投与により肝臓における糖新生酵素phosphoenolpyruvate calboxykinase (PEPCK) およびglucose-6-phosphatase (G6Pase) のmRNA発現量は増加し、グリコーゲン量は減少した。さらに、中枢のドパミンD2受容体の刺激による血糖上昇作用に自律神経が関与するか検討した結果、quinpiroleによる血糖上昇作用は肝迷走神経の切除により抑制されたが、β2アドレナリン受容体拮抗薬のICI 118,551の前処置では変化しなかった。これらの結果から、中枢のドパミンD2受容体の刺激は、副交感神経を介して肝糖産生を亢進させることにより血糖値を上昇させることが示唆された。次に、ドパミンD2受容体による血糖調節が糖尿病時に変化するか検討した。1型糖尿病モデルのstreptozotocin (STZ) 誘発糖尿病マウスにquinpiroleを投与しても、血糖値の上昇は認められなかった。そこで、エネルギー調節を担う視床下部のドパミンD2受容体のmRNA発現量を測定したところ、STZ誘発糖尿病マウスではD2受容体mRNA発現量が減少していた。さらに、肝糖産生について検討したところ、STZ誘発糖尿病マウスでは対照マウスと比較してPEPCK mRNA発現量は増加していた一方、G6Pase mRNA発現量は減少しており、quinpiroleを投与してもこれらの発現は変化しなかった。以上の結果より、STZ誘発糖尿病マウスでは視床下部のドパミンD2受容体の減少ならびに肝糖産生能の変化により、中枢のドパミンD2受容体刺激による血糖上昇作用が消失することが示唆された。