【目的】ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)はイオンチャネル型受容体であり、多数のサブタイプが存在する。その中でも脳内で高度に発現が見られるα7サブタイプは、学習・記憶や注意・集中などの高次脳機能に重要な役割を果たす他、神経伝達物質放出を制御していることが報告され、様々な神経変性疾患の創薬ターゲットとして注目を集めている。我々はα7nAChRと強い結合性を持つヘビ神経毒α-ブンガロトキシンと類似構造を持つ内在性タンパク質群lymphocyte antigen-6 superfamily (Ly6SF)に着目している。Ly6SFに属する約30種類のタンパク質は分子量が10 kDa程度と小さく、GPIアンカー型(膜結合型)として存在する。このうちの1つであり、脳および免疫系細胞で高い発現がみられるLy6Hは、α7 nAChRの内在性修飾因子である可能性が高いと考え、その生理的役割の解明に取り組んでいる。
【方法】HEK293細胞にα7nAChRの発現に重要な2種類の分子シャペロンNACHOおよびRIC-3とα7nAChR cDNAを導入することでα7nAChR形質膜上安定発現細胞株(TARO細胞)を作製した。TARO細胞にLy6Hを発現させ、α7nAChRを介したリガンド応答電流の変化をパッチクランプ法にて測定し、Ly6Hの修飾作用を解析した。次にLy6Hが形質膜上で作用を示すことをGPIアンカー切断処理や可溶型Ly6Hの細胞外投与実験により確認した。また、Ly6H作用のGPIアンカーの重要性を調べるために、Ly6HのGPIアンカー部分をLDL受容体の膜貫通領域に置き換えたコンストラクト(Ly6H TM) を作製し、共免疫沈降法、パッチクランプ法にて、結合性やチャネル活性に対する作用を解析した。
【結果】TARO細胞にLy6Hを発現させ、α7nAChRを介したリガンド応答電流を解析した結果、応答電流の抑制が見られた。一方で、GPIアンカー切断処理により、Ly6Hの修飾機能はキャンセルされたことから、Ly6Hは形質膜上で修飾作用を示すことが示唆された。次に、可溶型Ly6Hを投与した結果、リガンド応答電流の抑制は見られたものの、野生型Ly6Hを細胞に共発現した時に比べ、抑制率が低下していた。また、Ly6H TMはLy6Hと同様のα7 nAChR結合能は認められるものの、リガンド応答電流の抑制は観察されなかった。以上の結果より、Ly6Hの修飾作用にはGPIアンカーが重要であることが示唆された。
【結論】 Ly6Hはα7nAChRの細胞外領域に結合して阻害作用を示すが、その作用発現には、単にα7 nAChRに結合するばかりでなく、GPI配列を介した形質膜への繋留が必要であることが示された。