神経細胞の機能や生死を規定するのは、神経細胞内要因だけではなく、神経細胞外微小環境の影響も重要であると言える。実際に、近年、神経細胞を取り巻くグリア細胞を含む脳内環境の変化が、脳虚血や筋萎縮性側索硬化症などの神経細胞死を伴う神経疾患の病態形成に関与していることが明らかとなっている。一方、パーキンソン病(PD)病態下で認められるドパミン (DA) 神経特異的脆弱性におけるアストロサイトの変容やその関与については、未だ明らかとなっていない。そこで本研究では、ヒト iPS 細胞からアストロサイトを誘導し、PD 病態下 DA 神経細胞の脆弱性に対するアストロサイトの影響について検討を行った。まず、健常者ならびにPD 患者由来 iPS 細胞からアストロサイトへの誘導を試みた。その結果、健常者群ではGFAP陽性アストロサイトへの分化が確認されたのに対し、PD患者群では同条件下で分化誘導させたにも関わらず、GFAP陽性アストロサイトの存在はほとんど認められなかった。一方、グリア前駆細胞の段階から発現することで知られる CD44 ならびに vimentin については、健常者群と同様にPD 患者群においても発現が確認されたことから、PD 病態下では、成熟分化できずにグリア前駆細胞のまま分化が停止した未熟な細胞集団である可能性が示唆された。そこで次に、DA 神経細胞の脆弱性に対するアストロサイトの保護作用の有無について検討するため、健常者ならびにPD 患者由来 iPS 細胞から DA 神経細胞を作製し、成熟アストロサイトとの共培養を試みた。細胞障害性を有する6-OHDA を作製した DA 神経細胞に処置し、乳酸脱水素酵素 (LDH) 遊離量を指標に細胞脆弱性の評価を行った。その結果、PD 病態下で認められる 6-OHDA 処置による LDH 遊離量の著明な増加は、アストロサイトの共培養により有意に抑制された。これらの結果より、DA 神経障害の亢進に対して、アストロサイトは保護的な役割を持つことが明らかとなった。以上、本研究の結果より、DA 神経細胞障害に対するアストロサイトの保護作用の破綻が、PD病態下における DA 神経細胞の細胞死を惹起する一因である可能性が示唆された。