【目的】 肝臓は再生能が高い臓器として知られているが, 肝炎ウイルスや脂肪蓄積等により慢性的な損傷を受けると, 肝再生時に分泌されるコラーゲンなどが過剰に蓄積することで線維化を起こし, 肝炎から肝硬変, 肝がんへと不可逆的に進行する. このため, 慢性肝疾患において肝線維化は予後不良を決定づける因子であると考えられている. しかしながら, 肝線維化の有効な治療薬は未だ開発されていない.肝星細胞(hepatic stellate cell, HSC)は, 肝傷害時にTGF-bなどのサイトカインにより活性化し, コラーゲンを産生することから, 肝線維化の責任細胞であると考えられている. そのためHSCの活性化抑制および活性型から静止型への脱活性化は肝線維化の治療標的となり得る. Differentiation inducing-factor-1(DIF-1)は細胞性粘菌Dictyostelium discoideumの分化誘導因子として単離されたモルフォゲンである. 本研究ではDIF-1のHSC活性化および脱活性化に対する作用とその機序について検討した.
【方法】 ddYマウスの肝臓より, 密度勾配遠心法により静止型HSCを単離した.静止型HSCを10%FBS含有DMEMで7日間培養し, 活性化させた.HSCの活性化は活性型の指標であるα-SMAの免疫染色およびWestern blottingにより検討した.各種化合物を静止型および活性型に処置し, HSCの活性化および脱活性化に対する影響を調べた.
【結果および考察】 DIF-1(1–100 μM)は濃度依存的にHSCの活性化を抑制し, その抑制作用はGSK3β阻害薬TWS119(1 μM)により解除された. また, DIF-1(50 μM) はGSK3βのリン酸化(不活性型GSK3β)を減少させ, さらにβ-cateninの核への移行を抑制した. さらに, DIF-1(100 µM)はHSCを脱活性化させる傾向を示し, この作用はTWS119(1 µM)によって阻害されなかった. 以上の結果より, DIF-1はGSK3βの活性化を介してβ-catenin の核移行を抑制することにより, HSCの活性化を抑制すること, また, DIF-1はHSC脱活性化作用を有し, この作用は活性化抑制作用とは異なる機序であることが示唆された.