背景目的:肝類洞閉塞症候群(Sinusoidal Obstruction Syndrome: SOS)は、造血幹細胞移植後や大腸癌の化学療法後に発症し、重症化すると80%以上の死亡率がみられる。SOSの原因は十分理解されていないが、肝類洞内皮障害とその後に続く類洞内外での血小板凝集が関与する可能性が示唆されている。一方、トロンボキサンA2(TxA2)は血小板凝集作用および血管内皮細胞との相互作用によって局所微小循環を増悪させる。われわれは、これまでにTxA2受容体(TP)シグナルが肝微小循環や肝障害に関与することを報告した。そこで本研究では、SOSにおけるTPシグナルの役割を明らかにすることを目的とした。
方法:実験動物として8-10週齢の雄性C57BL/6マウス(野生型)とTPノックアウト(KO)マウスを使用した。モノクロタリン(monocrotaline, MCT)を投与し、SOSモデルを作成した。MCT投与48時間後までの肝障害(血清ALT値)、肝および血中血小板数、肝類洞内皮障害などについて比較検討した。
結果: MCT投与48時間後に血清ALT値はピークとなり、野生型マウスに比べ、TPKOマウスで有意に増加した。MCT投与後、肝臓中のTP受容体発現は亢進し、免疫二重染色でTP受容体は血小板および類洞内皮細胞に共発現した。血中血小板数はMCT投与48時間後に両群とも減少した。また肝集積血小板数は両群ともMCT投与48時間後に増加した。しかしながら血小板数については血中、肝内ともに両群に有意差はなかった。MMP-9,MMP-13,PAI-1などの類洞内皮障害関連マーカーの肝組織中における発現は経時的に増強し、MCT投与48時間後では野生型マウスに比べ、TPKOマウスで有意に増加した。単離培養した肝類洞内皮細胞にMCTを加えると、野生型マウスに比べてTPKOマウスの類洞内皮細胞の生存率が低下した。また類洞内皮障害関連マーカーの発現が野生型マウスに比しTPKOマウスで有意に増強した。
結論:マウスMCT誘発SOSモデルにおいて、TP受容体シグナルは肝類洞内皮障害を軽減し、肝障害を抑制する可能性が示唆された。