【目的】シスプラチンを含む数種の抗がん薬は筋萎縮を引き起こす可能性がある。さらに、がん患者において骨格筋量の減少は予後不良因子であることが報告されており、化学療法中に骨格筋量の減少を予防することができれば予後の改善に繋がる可能性がある。我々はマウスにシスプラチンを投与すると骨格筋のMuRF1 および Atrogin-1 の著明な発現増加を介した骨格筋萎縮が引き起こされていることを報告している。この筋萎縮にオメガ3脂肪酸であるエイコサペンタエン酸 (EPA) の投与が抑制効果を有することも見いだしている。本研究では EPA のシスプラチン誘発筋萎縮の抑制効果のメカニズムを明らかにすることを目的として、シスプラチン処置によって引き起こされるユビキチン遺伝子およびユビキチン化タンパク質への効果を検討した。【方法】①C57BL/6 雄性マウスにシスプラチン (3 mg/kg, i.p.) および EPA (300 mg/kg, p.o.)を Day 0 - Day 3の4日間投与し、Day 4 で大腿四頭筋を採取した。②C2C12 myoblasts を常法により myotubes に分化させ、シスプラチン (15 μM) および EPA (150 μM) 存在下 24 時間インキュベートした。①②から得られた組織及び細胞より、定量的RT-PCR法を用いて遺伝子発現を、Western blot 法および Dot Blot 法を用いてユビキチンおよびユビキチン化タンパク質の定量を行った。【結果および考察】マウスにおいては、シスプラチン投与による MuRF1 および Atrogin-1 の発現増加ならびに体重減少は EPA 投与により抑制されなかったが、大腿四頭筋質量および筋原線維径の減少は有意に抑制された。一方、シスプラチン投与によるユビキチン遺伝子およびユビキチン化タンパク質の発現増加は EPA 投与により抑制された。さらに C2C12 myotubes においてもシスプラチン投与によるユビキチン遺伝子およびユビキチン化タンパク質の発現増加は EPA の処置により抑制された。以上の結果より、EPA の処置はシスプラチンによるユビキチン遺伝子およびユビキチン化タンパク質の増加を低下させることでシスプラチン誘発筋萎縮を抑制できる可能性があることが示唆された。