腹側被蓋野 (ventral tegmental area, VTA) のドパミン神経細胞は、脳内の報酬系において重要な役割を担っている。脳報酬系の活性化は、脳内にとどまらず、末梢臓器にも広く影響を与える可能性がある。実際に近年では、遺伝薬理学的手法のDREADD法を用いて VTA のドパミン神経細胞を活性化させると、がんや細菌への抵抗性が増加することが報告されている (Shaanan et al., 2016; 2018)。しかしながら、この手法では、神経細胞が活性化する時間や頻度を制御できないため、VTAのドパミン神経細胞がどのように活性化されれば、末梢免疫活性化されるのかは不明であった。そこで本研究では、光遺伝学的手法を用いて、より生理的条件に近い実験系でこの現象を再現することを試みた。DAT-Cre マウスと RCL-ChR2(H134R)/EYFP マウスを掛け合わせ、VTAのドパミン神経細胞特異的にチャネルロドプシン2が発現するトランスジェニックマウスを作製した。このトランスジェニックマウスの VTA に光ファイバーを埋め込み、光刺激しながら投射先である海馬の脳波を測定したところ、光刺激に合わせた脳波の変動が見られた。この結果から、VTAを光刺激することでVTAのドパミン神経細胞を活性化することに成功したと考えらえる。その後、VTAのドパミン神経細胞を活性化させることにより末梢免疫に影響を与えるか検証するために、このマウスのVTAを生理条件で起こり得るような頻度で、12時間の光刺激を行った。光刺激してから3, 9, 24時間後に、尾静脈から血液サンプルを採取し、血清サンプルを作製した。Bio-Plex assay を用いて血清中サイトカイン濃度を測定したところ、光刺激したマウスで数種のサイトカイン濃度の増加が見られた。また、生理的条件での検討として、メスのマウスと10日間共に飼育した群と、玩具や回し車のある環境で10日間飼育した群を用意した。前者において、ある種の血清中サイトカイン濃度の増加が見られたが、後者では見られなかった。これらの結果は、脳の報酬系の活性化が末梢免疫の活性化に繋がる可能性を示唆している。

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