【目的】エルロチニブは、上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とした選択的チロシンキナーゼ阻害剤であり、肺がんや膵臓がんなどの治療に広く用いられる。エルロチニブは強力な抗がん活性を示す一方で、副作用として皮膚乾燥を訴える患者が多く、その割合は7割以上に達する。現在、この皮膚乾燥に対しては、保湿剤を用いた対症療法が行われているものの、完治させるには至っていない。本研究では、エルロチニブによる皮膚乾燥に対する新たな治療法や予防法を提案する目的で、エルロチニブによる皮膚乾燥メカニズムについて検討した。
【方法】マウスにエルロチニブを14日間経口投与し、角質水分量を測定した。また、皮膚における各種保湿因子関連分子の発現量を解析した。さらに、表皮角化細胞株であるHaCaT細胞にエルロチニブを添加し、アクアポリン3(AQP3)、リン酸化EGFRおよびリン酸化ERKの発現量を解析した。
【結果および考察】エルロチニブ投与群の角質水分量は、コントロール群と比べて有意に低く、皮膚乾燥が認められた。また、エルロチニブ投与群の皮膚保湿因子を解析したところ、セラミド分解酵素、セラミド合成酵素、ヒアルロン酸分解酵素、ヒアルロン酸合成酵素、I型コラーゲン、ロリクリンおよびフィラグリンの発現量には変化が認められなかったものの、水チャネルAQP3であるの発現量は有意に低下していることがわかった。さらに、表皮角化細胞株にエルロチニブを添加した結果、エルロチニブは細胞生存率に影響を及ぼさずに、AQP3を濃度依存的に低下させることが明らかとなった。また、この際に、リン酸化EGFRおよびリン酸化ERKがいずれも低下していることがわかった。以上の結果から、エルロチニブによる皮膚乾燥は、皮膚AQP3の発現低下により、血管側から角質側への水の移動が制限された結果、生じている可能性が考えられた。また、エルロチニブは表皮角化細胞に作用し、Ras/MAPK経路の活性を抑制し、AQP3を低下させた可能性が示唆された。したがって、エルロチニブによる皮膚乾燥に対しては、Ras/MAPK経路以外の経路でAQP3を増加させる物質や、表皮特異的にRas/MAPK経路を活性化させる物質が有効であると考えられた。