【背景・目的】 
がんの治療では抗がん剤が広く用いられているが、がんが耐性を獲得することが問題となっている。薬剤耐性を克服するために様々な研究がなされており、がん血管内皮細胞が新たな標的として注目されている。L-PGDSはプロスタグランジン合成酵素の1つで、アラキドン酸から変換されたPGH2を元にPGD2を合成する。L-PGDSはがん内の血管内皮細胞で高発現していることが報告されているが、その働きは明らかにされていない。本研究では、がん内の血管内皮細胞で発現しているL-PGDSが薬剤感受性に与える影響を明らかにすることを目的とした。 
【方法・結果】
野生型マウスとL-PGDS欠損マウスにLewis Lung Carcinoma (LLC) を皮下移植した。低容量の抗がん剤 (doxorubicin, 1 mg/kg) を腹腔内投与したところ、野性型マウスでは移植したがんの成長に影響がなかったのに対して、L-PGDS欠損マウスに移植したがんの成長は顕著に抑制された。免疫染色法によって、doxorubicinの処置は、L-PGDS欠損マウスに移植したがん内の血管内皮細胞のアポトーシスを引き起こし、血管を退行させていることが分かった。野生型マウスに移植したがんでは、このような現象はみられなかった。ヒト臍帯静脈内皮細胞 (HUVEC) にがんの上清を処置することで、がん内の血管内皮細胞をin vitroで模倣し、そのdoxorubicin (0.3 µM) に対する感受性を評価した。がん上清を処置したHUVECではL-PGDSの発現が上昇した。L-PGDSの選択的阻害剤であるAT-56 (30 µM) の前処置によって、がん上清を処置したHUVECのdoxorubicin感受性が著しく上昇した。細胞内のdoxorubicinの量を、その自家蛍光を測定することで評価したところ、AT-56の前処置によってHUVEC内のdoxorubicin量が増加することが分かった。qRT-PCR法により、薬剤排出トランスポーターとして知られるABCトランスポーターのmRNA発現を確認した。がんの上清の処置によってABCB1とABCC2のmRNA発現が上昇し、これはAT-56の前処置によって低下することも明らかになった。 
【考察】
以上の結果より、がん内の内皮細胞で発現しているL-PGDSは、ABCトランスポーターの発現を上昇させることで抗がん剤の排出を促進し、内皮細胞の抗がん剤感受性を低下させることが示唆された。

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