【目的】我々はこれまでに、N-methyl-D-aspartic acid (NMDA) をラットの硝子体内に投与すると、視神経節細胞あるいはアマクリン細胞に発現している神経型一酸化窒素合成酵素 (nNOS) 由来の NO 産生・遊離が亢進することにより、グリア細胞を介して網膜血管が拡張することを見出している。しかし、グリア細胞から産生・遊離される因子やその作用機序は明らかではない。そこで本研究では、NO によるグリア細胞を介した網膜血管拡張機序を明らかにすることを目的とした。
【方法】7-9 週齢の Wistar 系雄性ラットを用い、独自に構築した小動物用網膜血管径計測システムにより網膜血管径の変化を測定し、以下の検討を行った。グリア毒である fluorocitrate (450 pmol/eye), disialoganglioside-GD1b (15 nmol/eye) 及び L-alpha-aminodipic acid (250 nmol/eye), シクロオキシゲナーゼ阻害薬である indomethacin (10 nmol/eye), エポキシエイコサトリエン酸 (EETs) のアナログである 14,15-EE5(Z)-E (0.7 nmol/eye), リアノジン受容体遮断薬である dantrolene (1.7 nmol/eye) あるいは IP3 受容体遮断薬である 2-APB (6.4 nmol/eye) を硝子体内に投与し、約 90 分後に NO 供与体である NOR3 (5 nmol/eye) による反応を検討した。
【結果】NOR3 硝子体内投与による網膜血管拡張反応は、3 種類のグリア毒いずれによっても有意に抑制された。また、NOR3 による網膜血管拡張反応は、indomethacin 及び 14,15-EE5(Z)-E により有意に減弱した。さらに、NO 誘発網膜血管拡張反応は、dantroleneにより有意に抑制されたが、2-APB による影響を受けなかった。
【考察】以上より、ラット網膜において、神経細胞から産生・遊離した NO は、グリア細胞のリアノジン受容体に作用して細胞内 Ca2+濃度を上昇させ、アラキドン酸カスケード活性化に伴うプロスタグランジンあるいはEETs の産生・遊離を介して網膜血管を拡張させることが明らかになった。

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