[目的] 神経細胞は分化の過程で神経突起を伸長し、シナプスを形成することで神経回路を構築する。神経回路の構築は高次脳機能の獲得に重要であるが、分化やシナプス間情報伝達を調節する機構は未だ不明な点が多い。セラミドをセラミド-1-リン酸(C1P) に変換するセラミドキナーゼ(CerK)は脳において最も活性が高く、CerK欠損マウスは情動的な異常を示すことが知られている。このことからCerK/C1Pは高次脳機能に関与している可能性があるがその多くは未解明である。そのため本研究では神経機能におけるCerK/C1Pの役割を解析した。
[方法・結果] 実験にはnerve growth factor (NGF) により神経細胞様に分化するPC12細胞に、CerKを安定的にノックダウン(KD)あるいはHAタグを付加したCerK-HAを過剰発現させた細胞株を用いた。初めに、NBD蛍光基を付加したNBD-セラミドを細胞に処置し、NBD-C1Pを定量したところ、NGF刺激により産生量が増大した。またCerK KD細胞ではNGF刺激によるC1P産生量増大は見られなかった。次にウェスタンブロット法によりCerK-HAの発現レベルを解析すると、NGF刺激によりCerK-HAの増大が観察された。さらに無血清培養により、CerK-HA発現レベルが低下、NGF刺激ではその低下が抑制された。NGF刺激によりCerK発現レベルが増大する機構を解明すべく、real-time PCR法を用いて、NGF刺激時のCerK mRNA発現量を解析したところ有意な差は認められなかった。そこでNGFがCerKの分解を抑制する可能性を考え、プロテアソーム阻害剤、E1ユビキチンリガーゼ阻害剤を処置したところ、CerK-HA発現レベルの低下は抑制された。NGFにより分化したPC12細胞では神経伝達物質の放出が亢進することが報告されている。そこでCerK/C1Pが神経伝達物質の放出を制御している可能性を検証するため、細胞内に³Hラベルされたノルエピネフリン([³H]NE)を取り込ませ、放出量を解析した。その結果、[³H]NE放出はCerK-HAの過剰発現により増加し、CerKのKDにより減少した。一方でPC12細胞の形態を観察したところ、神経突起伸展にはCerKレベルの変化による差は見られなかった。
[考察] PC12細胞において、CerK-HAはユビキチン-プロテアソーム経路により分解されることが示唆された。さらにNGFはCerKの分解を抑制することでCerK発現レベルを制御している可能性が示唆された。またCerK/C1Pは神経突起伸展には関与しないが、神経伝達物質の放出を正に制御することが示唆された。脳におけるセラミド代謝は様々な神経変性疾患に関わることから、CerKによる神経機能制御メカニズムの解明によって新規治療戦略の開発が期待される。

To: 要旨(抄録)