ネオニコチノイド系薬剤は、昆虫のアセチルコリン受容体に種選択的に作用することから、世界各国で農薬として汎用されている。しかし、近年の動物実験において、本剤が脳に移行・蓄積されること、また、妊娠期の過剰な暴露は仔マウスに不安行動を惹起させる可能性が示唆され、その使用に懸念が生じつつある。我々は、ネオニコチノイド系薬剤がエピジェネティクスな遺伝子発現の制御機構であるゲノムDNAのメチル化に影響を与える可能性を見出し、標的遺伝子の特定を行っている。本発表では、ネオニコチノイド系薬剤が脳の遺伝子発現におよぼす影響を明らかにするために、メチル化の標的遺伝子、ならびにそれらの遺伝子の脳内での発現変動について紹介する。
12週齢のICR雌マウスにイミダクロプリド75mg/kg体重/DMSO、ジノテフラン100mg /Kg体重/saline、各薬剤のコントロール(DMSO、saline)を経口投与し、4時間後の大脳皮質において、MDB2抗体を用いた網羅的なゲノムDNAのメチル化解析を行った。その結果、イミダクロプリド投与マウスでは58遺伝子、ジノテフラン投与マウスでは181遺伝子のゲノムDNAのメチル化にコントロールマウスと違いが見られた。これらの遺伝子の中には、ネオニコチノイド系の両薬剤でメチル化の変動がみられた遺伝子に加え、各薬剤で異なるメチル化の変動を示した遺伝子が複数みられた。そこで、脳内で発現が確認されている11の遺伝子について、薬剤投与4時間後、1日後、2日後の大脳皮質から全RNAを調整し、RT-PCRおよびリアルタイムPCRを用いて定量的な遺伝子発現解析を行った。その結果、両薬剤ともに神経突起の形成・伸長に関わるCux1の発現が投与4時間後に一過的に増加、また、 シナプス関連分子であるSynapsinの発現が投与1日後に一過的に低下した。一方、イミダクロプリド投与マウスのみ、ムスカリン性アセチルコリン受容体であるChrm3の発現が投与4時間後に一過的増加、また、シナプス関連分子であるNeurexinの発現が投与1日後に一過的に低下した。
以上の結果から、ネオニコチノイド系薬剤の過剰な経口投与は、ゲノムDNAのメチル化や遺伝子の発現に影響をおよぼすが、その標的遺伝子や発現変動は各薬剤により異なることが判明した。