哺乳類の心筋細胞は、出生時には依然未分化で、興奮収縮連関機構が未熟なため収縮力が弱い。しかし心筋細胞は、生下後急速に高まる全身の酸素需要に対応すべく、新生児期に肥大成長する。またこれと同時に、心筋細胞、特に心室筋細胞は機能的に高度に分化する。心室筋細胞の表面細胞膜が、細胞内に管状に入り込みT菅という構造を形成する。T菅では、興奮収縮連関の要であるL型Ca2+チャネルが集積増加し、細胞の奥深くで活動電位に同期したCa2+流入を生じるようになる。流入したCa2+は、この時期にT菅のL型Ca2+チャネルと密接に配置されるようになる筋小胞体のリアノジン受容体から、細胞内で均一で強いCa2+遊離を生じ、安定した強い収縮力を生み出す。このような生下後の機能的分化による心機能の向上は、哺乳類にとって必須であり、その不全は致死的である。しかし、このような心筋細胞の最終分化の分子メカニズムは、未だ明らかではない。生下後の心臓内では、種々の液性因子の発現が変化することが知られている。そこで我々は、これらの液性因子を介した細胞間シグナルが、心筋細胞の最終分化に関与する可能性を考えた。そこで出生直後から30日齢までのマウスに、種々の受容体阻害薬を継続投与し、心筋細胞の最終分化への影響を評価した。その結果、SC144(gp130阻害薬)またはNintedanib(VEGF、PDGF、FGF受容体阻害薬)を投与したマウスでは、その心筋細胞の最終分化が抑制されるという知見を得た。具体的には、これらの薬物はT管形成異常、L型Ca2+チャネル電流密度上昇の抑制、活動電位に伴う細胞内Ca2+濃度上昇の抑制、および左心室収縮能低下を引き起こした。しかしこれらの薬物による左心拡張期径増大や不整脈、心筋の繊維化は見られなかった。以上の結果は、gp130やVEGF、PDGF、FGF受容体が、心筋細胞の生下後最終分化に関与することを示唆している。我々は、これらの薬理学的スクリーニングの結果を受け、現在アデノ随伴ウイルスによる細胞種特異的CRISPR-Cas9誘導モデルマウスで、各受容体の役割についてより詳細な解析を行っている。