遺伝子発現制御機構の一つに、プロモーター領域の DNA メチル化が知られている。DNA メチル化は主に、CpG ジヌクレオチドのシトシンに起こるとされている。DNA methyltransferases (DNMTs) はシトシンの 5 位にメチル基を転移し 5-methylcytosine (5mC) を生成する。プロモーター領域の DNA メチル化は転写因子の結合を物理的に妨げることや、クロマチン構造の変化を介して遺伝子発現を転写レベルで制御している。近年、多くの疾患の病態形成に DNA メチル化が関与していることが報告され、注目を集めている。その中で、DNMTs 阻害薬の投与は脳梗塞モデル動物の梗塞面積を減少させることが報告されているものの、その詳細は未だに明らかにされていない。そこで本研究では、脳梗塞後の DNA メチル化の変化と病態形成との関連について検討した。
初めに、一過性局所脳虚血後の DNA メチル化をラット middle cerebral artery occlusion / reperfusion (MCAO/R) モデルを用い検討した。免疫染色法により 5mC の局在を検討した結果、MCAO/R 1日後の大脳皮質梗塞領域で 5mC 陽性細胞が観察され、かつこれらの細胞は NeuN 陽性の神経細胞であった。そこで、ラット初代培養大脳皮質神経細胞を用いてさらなる検討を行った。脳梗塞病態を模倣するため、N-methyl-D-aspartate (NMDA) 処置により神経細胞死を誘発した。NMDA 処置後の DNMT3a (de novo 型 DNA methyltransferase) タンパク質量を経時的に検討した結果、NMDA 処置 1 時間後までのタンパク質量はコントロール群と同程度に維持されていたものの、処置 8 時間後までのタンパク質量はコントロール群と比較し減少した。また、5mC 陽性細胞数は、NMDA 処置 30 分後をピークに増加し、それ以後の 5mC 陽性細胞数は減少に転じた。さらに、DNMT 阻害薬 (RG108) の投与は NMDA 誘発神経細胞死を抑制した。
これらのことから、虚血後早期に惹起される DNA メチル化は脳梗塞の病態形成に関与している可能性が示された。