【目的】矯正治療では歯の移動に伴い末梢に疼痛を生じる。末梢性疼痛は、一次求心性線維の神経節サテライトグリア細胞にGFAP(グリア線維性酸性タンパク質)発現を伴う興奮を引き起こすことが知られている。そこで、本研究では歯の移動に伴う疼痛を開口反射誘発閾値(TH)の変化によって定量評価可能な動物モデルを用いて、矯正力による疼痛と三叉神経節GFAP陽性サテライトグリア細胞数の関連性と、投薬の効果を検討した。【試料および方法】イソフルラン(2-3%,1.0L/min)による全身麻酔下で雄性Wistar系ラットの上顎両側門歯と右側第一臼歯間(M1)にNi−Tiコイルスプリングを装着し矯正力(50 g)を負荷した。薬物投与群には矯正力負荷直後より、アスピリン(100 mg/kg)、モルヒネ(1.0 mg/kg)を投与(8時間毎、3回/日)した。矯正力負荷1(D1)、3(D3)、7(D7)日後に、ラットにイソフルラン(2-3%,1.0L/min)全身麻酔下で気管挿管を行い、筋電図(顎二腹筋)採取用電極と、電気刺激用電極を両側M1部歯肉に留置した。手術終了後、麻酔濃度を約1.5%まで下げ下肢回避反射を確認し、右側からTHを測定し矯正力誘発疼痛を評価した。次に、三叉神経節の組織学的な変化と疼痛の強度の関連を検討するために4 % パラホルムアルデヒドにて灌流固定後に三叉神経節を摘出し、灌流固定で用いた同様の固定液にて約24時間以上後固定した。摘出組織から通法に従い水平断凍結切片(5mm)を作製し、GFAP免疫蛍光染色を行い観察した。三叉神経節I、II、III枝領域において、周囲2/3以上をGFAP免疫反応性(IR)細胞に囲まれた神経細胞体数を計測した。【結果および考察】本モデルでは、D1は右側THが左側と比較して有意に減少し、D3で回復傾向を示し、D7で上昇する事が示されている。それに伴い、右側I・II枝領域でGFAP-IR細胞に囲まれた細胞体が左側に比較して有意に増加したが、D3、D7では有意差はなかった。いずれの鎮痛薬も、D1で右側のTHを有意に上昇させ、右側I・II枝領域のGFAP-IR細胞に囲まれた細胞体の有意な減少を伴った。これらの結果は、矯正力誘発疼痛が三叉神経節サテライトグリアのGFAP活性上昇を伴うこと、また異なる作用機序の鎮痛薬でもその活性を阻止できることを示した。

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