【背景】てんかんは、大脳ニューロンの過剰な放電によっておこり、けいれんなどの発作を繰り返す慢性疾患である。てんかん治療において、重要となるのが薬物治療であり、現在臨床では20種類を超える抗てんかん薬が開発され使用されている。しかし、てんかん患者の約20%は複数の抗てんかん薬に抵抗性を示す難治性てんかんであることが知られている。そのため既存の抗てんかん薬とは異なる新規薬理作用を有する抗てんかん薬の開発が望まれている。そこで、大規模医療情報データベースを用いてドラッグリポジショニングによる難治性てんかん治療薬候補の探索並びに動物実験による基礎的検証を行った。
【方法】既存承認薬の中から抗てんかん作用を有する薬剤を探索するため、有害事象自発報告データベースであるFAERSを用いて網羅的に解析し、けいれんの発症を抑える可能性のある既存医薬品を探索した。データベース解析の結果得られた候補医薬品について、その抗けいれん作用を、てんかんモデルとして広く用いられるペンチレンテトラゾール(PTZ)キンドリングモデルを用いて検討した。
【結果】FAERS解析の結果、ヘルペス治療薬であるacyclovirの服用患者は、cefepime投与による有害事象としてのけいれん報告割合が有意に少なかった。そこでacyclovirのプロドラッグであるvalacyclovirの抗てんかん作用を評価した。PTZキンドリングモデルマウスに対しvalacyclovir単独では抗けいれん作用を示さなかったが、キンドリング形成時の慢性投与では有意にキンドリングの形成を遅延させた。一方で、各種抗てんかん薬との併用実験を行ったところlevetiracetamとの併用で有意にけいれんスコアを低下させた。また、海馬歯状回におけるc-Fos陽性細胞の発現を有意に低下させた。
【結論】FAERS解析の結果からてんかん治療の新たな候補薬剤として見いだされたvalacyclovirはキンドリング形成に対して有意な遅延効果を示した。既存抗てんかん薬との併用実験において、levetiracetamとの併用により抗てんかん作用を増強し、また、歯状回におけるc-Fos陽性細胞を有意に減少させた。以上の結果から、valacyclovirは興奮系の神経を抑制し抗てんかん作用を増強する可能性が示唆された。