【目的】オキサリプラチンは直腸・結腸がんに対して有効な白金系抗がん剤であるが、副作用として急性および慢性の末梢神経障害を高頻度で発現する。オキサリプラチン誘発末梢神経障害(OIPN)により、患者の生活の質が低下し、治療の継続が困難となる。しかし、OIPNに対する有効な治療薬はなく、治療薬の開発が喫緊の課題となっている。本研究では大規模医療情報データベースを活用したドラッグリポジショニング手法によりOIPNに対する予防薬を探索した。
【方法】OIPNを促進または抑制する遺伝子を文献レビューにより同定し、遺伝子発現データベース(LINCS)および有害事象自発報告データベース(FAERS)を用いて、予防薬となり得る既存承認薬を抽出した。C57BL/6J系統マウスの両脊髄後根神経節(DRG)を摘出し、初代培養DRG神経細胞を作製した。7日間培養した後にオキサリプラチン、予防候補薬を処置し、24時間後における神経細胞保護効果をWST8法により検討した。C57BL/6J系統雄性マウス(8週齢)にオキサリプラチン(6mg/kg, i.p)を週1回投与し、OIPNモデルマウスを作製した。予防候補薬を1日1回、21日間反復経口投与し、acetone testならびにvon Frey testにより冷痛覚過敏および機械的痛覚過敏に対する影響を評価した。
【結果】文献レビューにより9種類のOIPN関連遺伝子が同定され、LINCSおよびFAERSを用いた解析によりOIPN予防候補薬としてシンバスタチンが抽出された。マウス初代培養DRG神経細胞において、シンバスタチンおよびその同種同効薬であるアトルバスタチン、ロスバスタチンは、オキサリプラチンによる細胞死を抑制した。acetone testにおいて、3種類のスタチン系薬剤は冷痛覚過敏を予防しないことが示された。一方、von Frey testおいて、3種類のスタチン系薬剤は、vehicle群と比較して、オキサリプラチンによる機械的痛覚過敏を有意に抑制した。
【考察】シンバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチンは、オキサリプラチンによる慢性末梢神経障害に対する予防薬となり得ることが示唆された。