【背景・目的】アトピー性皮膚炎 (AD) の脳内における痒みのメディエーターはほとんど明らかではない。アロプレグナノロン (ALLO) およびテトラヒドロデオキシコルチコステロン (THDOC) は、それぞれプロゲステロンおよびデオキシコルチコステロンから5α-レダクターゼを介して生合成される内因性物質であり、ともにGABAA受容体の強力な正のモジュレーターである。これまで当研究室では、ADモデルマウスにALLOを投与すると掻痒行動が増加することを明らかにしたが、THDOCがALLOと同様に掻痒行動を増強するかは不明である。また、ADマウスの自発的な掻痒行動に内在性のALLOおよびTHDOCが関与するかも明らかではない。そこで本研究では、1) THDOC投与により掻痒行動が増強するか、および2) ADマウスにおける慢性的な掻痒行動は5α-レダクターゼ阻害薬フィナステリドにより抑制されるかを検討した。 
【方法】ヘアレスマウスに不飽和脂肪酸およびデンプン欠乏飼料を摂食させることにより中等度のAD症状を誘発した (ADマウス)。フィナステリドを用いた検討では、ADマウスにダニ抗原を経皮的に反復暴露することにより掻痒行動および皮膚炎症状を増悪させた (重症ADマウス)。フィナステリド (50 mg/kg, i.p.) は掻痒行動測定の前日および1時間前に2回投与した。 
【結果】ADマウスにALLO (10 mg/kg, i.p.) を投与すると掻痒行動が有意に増加し、ALLOの作用が再現された。次にTHDOC (10 mg/kg, i.p.) を投与したところ、ALLOと同程度の掻痒行動の増強が認められた。重症ADマウスにみられる慢性的な掻痒行動はフィナステリドの投与により有意ではないものの抑制される傾向が認められた。 
【結論】THDOCはADマウスにおいてALLOと同様に掻痒行動を増強することが明らかとなった。また、フィナステリド投与により重症ADマウスにおける掻痒行動が抑制される傾向がみられたことから、内因性に存在するALLOおよびTHDOCが重症ADに伴う痒みに関与する可能性が示された。