老化は全身の臓器に様々な影響を及ぼす因子である。特に骨組織においては、老化によってその組成や構造の変化、あるいは機能の慢性的な低下が生じ、骨粗鬆症を含む骨関節疾患が引き起こされる。Cyclin-dependent kinase 8(CDK8)はCDKファミリーに属するセリン/スレオニンキナーゼの一種である。これまでに転写プロセスの調節等に関与することが報告されているが、骨恒常性維持機構における役割は不明である。本研究では、老化による骨恒常性維持機能の低下におけるCDK8の機能的役割の解明を試みた。バイオインフォマティクス解析より、若齢マウスの骨髄間葉系幹細胞(Bone marrow mesenchymal stem cell/mesenchymal stromal cell: MSC)よりも老齢マウスのMSCにおいてCDK8の発現レベルが高く、CDK8高発現MSC群では細胞老化関連シグナルが活性化していることが示された。遺伝子改変マウスを用いた解析では、MSC特異的CDK8欠損マウスにおいて骨量の増加および骨吸収パラメーターの減少が認められた。一方、骨芽細胞特異的CDK8欠損マウスでは著明な骨表現型は認められなかった。また、CDK8ノックダウンMSCは、signal transducer and transcription 1 (STAT1)のリン酸化低下、receptor activator of nuclear factor kappa-β ligand (RANKL)の発現低下および破骨細胞形成支持能の低下を示した。さらに老齢マウス由来MSCは、若齢マウス由来MSCよりも高い破骨細胞形成支持能を示したが、CDK8ノックダウンによりその支持能は著明に抑制された。以上の結果から、MSCのCDK8は、STAT1/RANKLシグナルを介して破骨細胞形成を調節することで、加齢に伴う骨恒常性維持機能の低下に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。