抗PD-1抗体や抗CTLA-4抗体など、がんに対する獲得免疫反応を促進する免疫チェックポイント阻害薬の成功は、がん微小環境での免疫回避メカニズムの研究ががん細胞そのものの研究と同様、極めて重要であることを裏付けた。しかし、免疫チェックポイント阻害薬の課題は、有効ながんに対しても奏功率が約3割に止まり、無効ながんも多いことである。そこで本研究では、抗PD-1抗体非感受性マウス肺がんLewis Lung carcinoma1(LLC1)腫瘍皮下担がんモデルを用いて、脂質性炎症メディエーターの1つであるプロスタグランジンE2(PGE2)の受容体EP2とEP4の阻害剤における腫瘍増殖抑制作用を検討した。さらにsingle cell RNA sequencing (scRNA-seq)技術を取り入れることにより、EP2/4阻害剤投与下におけるLLC1がん微小環境内の免疫細胞種の遺伝子シグネチャー変化を網羅的に解析した。その結果、EP2/4阻害は、NFkB関連遺伝子のダウンレギュレーションを介した炎症性血管新生骨髄系細胞のリプログラミングおよびmregDC-制御性T細胞軸の抑制を介して抗腫瘍免疫を増強することを明らかにした。この結果は抗PD-1抗体が抗腫瘍作用を発揮できない原因に一部繋がるとともに、免疫チェックポイント以外の免疫抑制メカニズムの一端を明らかにする。これらの知見は、未知のがん免疫回避・増殖促進メカニズムの存在を示唆しており、新規薬物の開発及び臨床応用に結びつく可能性がある。