松果体は脳内に存在する内分泌器官であり、ホルモンの一種であるメラトニンの合成・分泌が行われる。松果体より分泌されたメラトニンは、生体内に発現しているメラトニン受容体を活性化することで概日リズムの形成などの様々な生理作用を発揮し身体機能の調節を行う。当研究室ではこれまでに、松果体細胞には電位依存性Ca2+チャネルやCa2+活性化K+チャネル、Ca2+活性化Cl-チャネルが発現し、これらのイオンチャネル活性が松果体機能の発揮に重要な役割を果たしていることを報告してきた。しかし、メラトニン自身の松果体イオンチャネルに対する作用は不明である。本研究では、松果体細胞に発現する電位依存性K+チャネル (Kvチャネル)に対するメラトニンの作用を解析した。
ラット松果体において、リアルタイムPCR法を用いてKvチャネル (Kv1~12)のmRNA発現解析を行った結果、Kv4.2チャネルの高発現が認められた。ホールセルパッチクランプ法を適用し、ラット松果体細胞に脱分極刺激を行ったところ、電位依存性の外向き電流が観察された。この外向き電流はKvチャネル阻害薬である4-アミノピリジン (5 mM)に感受性を有した。これらの結果から、ラット松果体細胞において、Kv4.2チャネルが機能発現していることが示唆された。次に、メラトニン (1 μM)を投与したところKvチャネル電流の抑制が認められた。さらに、メラトニンによるKvチャネル電流の抑制作用にメラトニン受容体が関与するかを検討するため、メラトニン受容体阻害薬であるルジンドール (1 M)存在下でメラトニンの効果を解析した。その結果、ルジンドール存在下においてもメラトニンによるKvチャネル抑制作用が同様に認められた。
本研究より、メラトニンは松果体に発現するKv4.2チャネルなどのKvチャネルに直接作用し、そのチャネル活性を抑制することが示唆された。本研究成果は、メラトニンによる松果体機能調節の解明に有益な情報となることが考えられる。