[背景] 肝臓は代謝を担う主要臓器であり、その障害は個体機能低下の要因の一つとなる。様々な肝疾患における病態メカニズムの解明に伴い、新たな治療標的ネットワークの予測が加速する。これらの予測の検証において、遺伝子改変や薬物投与を容易に行うことができ、それらの肝臓における効果を簡便に評価できる動物モデルは有用な研究ツールとなる。
[目的]  肝細胞のアポトーシスを簡便に可視化できるゼブラフィッシュを用いて、薬物性肝障害に対する庇護薬の効果を解析することにより、このアプローチを用いた肝疾患治療薬探索の有用性を検証すること。
[方法] 肝細胞におけるcaspase 3の活性化を蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)により可視化できるゼブラフィッシュ仔魚(受精後4日目)に、アセトアミノフェン (APAP,10 mM, 12時間) とイソニアジド (INH, 6 mM, 24時間) を投与し、薬物性肝障害モデルを作成した。また、庇護薬としてウルソデオキシコール酸(UDCA, 100 microM)とオベチコール酸 (OCA, 25 microM) をAPAPやINHと同時に投与し、蛍光ライブイメージングを用いたFRET解析により肝細胞におけるcaspase 3の活性を定量化し、UDCAとOCAの肝保護作用を評価した。
[結果および考察] APAP、INHの単独投与によりcaspase 3活性化に伴うFRETシグナルは薬物非投与群に比べて有意に変化し、これらの薬物投与による肝細胞のアポトーシス増加が示唆された。UDCA、OCAを併用投与した場合のFRETシグナルは、薬物非投与群に比べて有意な変化は認められず、これらの庇護薬投与により、APAP、INHによる肝障害が抑制されたことが示唆された。本研究のアプローチは、様々な肝疾患に対する治療薬探索に有用であると考えられる。