【背景・目的】Darbepoetin alfa (DPO) などの赤血球造血刺激因子製剤は、ドーピング禁止薬物に指定されているが、赤血球の増加が運動能力を向上させるという知見は限られている。本実験では、遊泳装置を用いた新規持久力評価系を用いて、DPOのドーピング効果を調べた。
【方法】実験には7週齢の雌性FVB/Nマウスを使用し、運動トレーニングを負荷する場合には、強制回転かごを用いた1時間の運動を、週5日間行った。トレーニングの有無による異なる条件で、DPO(10 μg/kg/week, s.c.)を2週間投与した。遊泳試験は週1回行い、前半30分を5 L/minの流量で、5分のインターバルを挟んで、後半30分を7 L/minの流量で、流水口から35 cm地点の到達回数を計測した。持久力に及ぼす運動トレーニングの影響の検討では、マウスを2群に分け、片方の群にのみ、運動トレーニングを負荷し、上記の遊泳試験を週1回行った。運動負荷7週間後に、前脛骨筋および腓腹筋を摘出し、筋肉分解に関連する遺伝子のmRNA発現量を測定した。
【結果】DPOの投与は、運動負荷の有無に関わらず、ヘマトクリット値を顕著に増加させたが、前半30分の到達回数に有意な変化を及ぼさなかった。DPOの投与は、運動トレーニングを負荷していないマウスでは、後半30分の到達回数に影響を及ぼさなかったのに対して、運動トレーニングを負荷したマウスでは、対照群と比較して、到達回数を有意に増加させた。また、同一個体における投与前後の比較では、DPOを投与したマウスにおいて、後半30分の到達回数に有意な増加が認められた。運動トレーニングの負荷は、体重の増加を顕著に抑制し、後半30分の到達回数を顕著に減少させた。また、運動トレーニングの負荷は、前脛骨筋および腓腹筋において、myostatinおよびMuRF1のmRNA発現量を有意に減少させた。
【結論】我々が考案した持久力の評価系において、運動トレーニングの負荷が雌性マウスの持久力を低下させること、およびDPOの投与がこの持久力の低下を改善することが示された。本評価系を用いることにより、ドーピング禁止薬物の効果をマウスで検証することが可能になると考えられた。