【目的】糖尿病患者は感染症に罹患しやすいことが知られており、その背景として免疫機能の低下が考えられる。グラム陰性菌がもつ内毒素であるlipopolysaccharide (LPS)に対する反応性やクリアランスの低下が糖尿病患者において認められる。したがって、LPSの認識に関与する分子 [Toll-like receptor 4 (TLR4)、CD14、MD-2] を介したシグナルの低下が糖尿病によって誘導されていることが示唆される。高血糖状態が持続することによって血液や組織中に advanced glycation end products (AGEs) が蓄積し、組織障害を誘導することが知られている。AGEsの中でも、glycolaldehydeとタンパク質の反応によって生成されるAGE3は特に強い生理作用を示す。本研究では、LPSに対するマクロファージの免疫応答におけるAGE3の影響について解析した。
【方法】マウス由来マクロファージ様細胞のRAW264.7細胞を用いた。LPSの細胞内取り込みを評価するために、蛍光標識したLPSを細胞に処置後、蛍光強度の変化をフローサイトメトリーならびに共焦点顕微鏡で測定した。LPSによる培養上清中サイトカイン(CXCL10)の遊離はELISAにて解析した。AGE3はglycolaldehydeとBSAを1週間インキュベートしたものを使用した。
【結果】LPSはCD14依存的にRAW264.7細胞に取り込まれた。LPS処置 24 時間後、培養上清中におけるCXCL10濃度が増加しており、このLPSによる作用は抗CD14中和抗体の処置によって抑制された。AGE3はCD14の細胞膜発現を低下させ、LPSの細胞内取り込みとCXCL10の遊離を抑制した。AGE3による抑制作用は、AGE受容体であるRAGEの阻害剤FPS-ZM1あるいは抗RAGE中和抗体の処置によって抑制された。
【考察】AGEsはRAGEを介してCD14の細胞膜発現を低下させることによってLPS細胞内取り込みを抑制し、CXCL10遊離を低下させることが示唆された。AGE-RAGE系の亢進は糖尿病において認められる免疫機能の低下に関与していることが考えられる。