経口分子標的薬の抗がん剤は、従来の殺細胞薬に比べ毒性が軽微とされている。しかしながら、それでもなお投与開始後の早期から特有の有害事象に遭遇することが少なくない。これらの薬剤は、体表面積などによる患者ごとの投与量調節を行わず固定用量で投与を開始するが、近年、患者間の血漿中濃度の多様性や、濃度と治療効果・有害事象との関連が着目されている。これらの知見から、患者一人ひとりに対し、血漿中の薬物濃度に基づいて投与法を個別化・最適化することが重要と考えられるようになってきた。しかし、薬物濃度測定の主流である質量分析は、高価であるため、多くの医療施設では設置できない。さらに外注の場合、検査結果を得るまで1~2週間を要する。つまり臨床現場での迅速かつ簡便な測定法が確立していないため、分子標的薬のモニタリングと治療への活用は不十分である。そこで本研究では、この課題にアプローチするため、従来の素材より安定した反応を示すダイヤモンドセンサを駆使して、小型の迅速測定装置を創出した。標的薬物として、チロシンキナーゼ阻害薬であるパゾパニブを選択した。基礎実験として、採取したラット血漿にパゾパニブを添加し測定法を検証した。除タンパクのために、薬を含む血漿サンプル100 µLに対しアセトニトリルを添加し攪拌した。続けて、サンプルを20,000 Gで2分間遠心し、上清100 µLをダイヤモンドセンサにて測定した。その結果、推奨治療濃度域をカバーする0~150 µMで定量が可能であった。測定は約35秒の短時間で、サンプル処理を含む全工程が10分以内で完了した。次に、パゾパニブをラットにパゾパニブを経口投与したのちに採血し、血漿中濃度の経時変化を測定した。Tmaxは〜4時間となり、先行研究における薬物動態の結果と類似していた。さらに、測定チャンバーの改良により、手のひらサイズのデバイスを作製した。これにより、測定感度は維持しつつ省スペースでの測定が可能となった。迅速、簡便、安価な本計測法の展開により、経口分子標的薬のオーダーメイド治療が可能になると期待される。