前立腺癌にはアンドロゲン受容体が関与するため、抗アンドロゲン受容体を阻害するホルモン療法が有効である。しかし、一部には、治療抵抗性前立腺癌や転移性前立腺癌も存在する。転移性前立腺癌においては、アンドロゲン受容体とは別の経路がその病態形成に関与している可能性が考えられる。本研究では、アンドロゲン受容体陽性または陰性細胞株を用いて、チロシンキナーゼ受容体の一種である血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)の機能発現を解析した。前立腺上皮細胞株(PrEC)、アンドロゲン受容体陽性前立腺癌細胞株(LN-CaP)、アンドロゲン受容体陰性前立腺癌細胞株(PC-3、DU145)を用いた。ウエスタンブロット法を用いて受容体タンパク質発現、MTTおよびBrdUアッセイを用いて細胞増殖、トランスウエル法を用いて細胞遊走、ヌードマウスを用いてin vivo腫瘍形成を解析した。VEGFRのうち、VEGFR3の発現がアンドロゲン受容体非依存性のPC-3細胞株で最も高かった。VEGFR3のリガンドであるVEGFCはVEGFR3のリン酸化や細胞遊走を亢進し、この効果はVEGFR3の選択的阻害薬であるMAZ-51やVEGFR3ノックダウンにより抑制された。MAZ-51は濃度依存的に細胞の生存率や増殖も抑制した。さらに、MAZ-51はヌードマウスに移植したPC-3細胞の腫瘍形成を濃度依存的・時間依存的に抑制した。本研究成果によって、VEGFR3が転移性前立腺癌治療薬の新たなターゲットになる可能性が示された。