ヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)によって引き起こされる結核は人類最古の感染症の一つでありながら、未だに年間140万の人命を奪い最大級の猛威をふるっている。唯一の確立された結核予防法は、ウシ型結核菌弱毒株BCGによるワクチン接種であるが、その予防効果は限定的である。BCGでは結核菌の侵入門戸となる呼吸器系の粘膜面での免疫成立が困難であることが、その原因の一つに挙げられる。そのため、粘膜免疫誘導性の高い新たなワクチン開発が求められている。本研究では、BCG由来の細胞外小胞(メンブレンヴェシクル;MV)を用いた粘膜免疫誘導型結核ワクチン開発を目指し、BCG由来MVによる免疫誘導性を検討した。
攪拌培養と静置培養の2つの異なる条件でBCGを培養し、その培養上清より超遠心法にてBCG由来MVを精製した。これら精製したMVでマクロファージ様細胞THP-1を刺激し、遺伝子発現を解析することで自然免疫誘導性を評価した。興味深いことに、静置培養で得られたMV(pellicle-MV)ではinterleukin (IL)-6やtumor necrosis factor (TNF)αなど炎症性サイトカインの遺伝子発現が有意に増加するのに対し、攪拌培養で得られたMV(planktonic-MV)では発現誘導は認められなかった。また、pellicle-MVによるIL-6やTNFαの発現誘導は、Toll様受容体(TLR)2欠失THP-1細胞では完全に消失した。次に、MVの獲得免疫誘導性を評価するため、6週齢雌性BALB/cマウスに対し、MVの経鼻免疫を行った。唾液、肺胞洗浄液、鼻腔洗浄液中の抗結核菌抗体は、pellicle-MV免疫群で有意な増加が認められたが、planktonic-MVは増加していなかった。
以上の結果から、pellicle-MVは自然免疫誘導性と獲得免疫誘導性を有することが明らかになった。Pellicle-MVは、粘膜免疫誘導型の新たな結核ワクチン候補として有望であることが示唆された