【背景と目的】G-protein-coupled receptor 3 (GPR3)は神経細胞や卵母細胞に豊富に発現し、リガンド非存在下にGαs活性化能を有するG蛋白共役型受容体である。一方、我々はGPR3が神経細胞のみならず肥満細胞やTリンパ球刺激後早期に発現誘導することを新たに見出した。本研究ではDNAマイクロアレーを用いて、Tリンパ球刺激に伴うGPR3発現上昇が影響を及ぼす遺伝子発現を検索し、Tリンパ球におけるGPR3の役割と機能について検討した。
【方法】Tリンパ球にはJurkat細胞(ヒト急性T細胞性白血病細胞由来)を使用した。細胞刺激にはphorbol 12-myristate 13-acetate and ionomycin(PMA)100 nMとイオノマイシン1 μg/mlを使用した。Tリンパ球刺激によるGPR3発現をsiRNAで抑制し、刺激6時間後におけるコントロールとの差異遺伝子をDNAマイクロアレー(Affymetrix GeneChip®)にて解析した。
【結果】Tリンパ球をPMA+イオノマイシンで刺激すると、刺激2-8時間後でGPR3 mRNA発現上昇を認めた。次に、Tリンパ球刺激に伴うGPR3発現をsiRNAで抑制し、有意なGPR3発現抑制が観察された刺激6時間後での差異遺伝子発現解析を行った。その結果、GPR3発現抑制に伴って発現減少する遺伝子として、転写因子NR4A2(nurr1)を同定した。Real-time RT-PCRを用いた発現解析により、Tリンパ球刺激に伴うGPR3発現誘導と、NR4A2発現には正の相関性を認めた。さらに、GPR3発現によるNR4A2発現上昇は、PKC、PKA、MAPキナーゼ阻害剤で有意に抑制されたが、PI3キナーゼ阻害剤では抑制されなかった。さらにNR4Aの転写活性はGPR3発現と正の相関性を認めた。
【結論】Tリンパ球細胞刺激後早期に発現上昇するGPR3は、NR4A2発現やその後のプロモーター活性を上昇させ、Tリンパ球機能を修飾する可能性が示唆された。