【背景】以前の検討により、オオケビラゴケから抽出された新規ビベンジル化合物であるPerrottetin D (PerD)及びPerrottetin Dのジアセチル誘導体 (Ac-PerD)は肥満細胞の抗原抗体反応による脱顆粒やヒスタミン遊離、サイトカイン産生を抑制することが明らかとなった。今回はPerD及びAc-PerDの抗原抗体反応による肥満細胞からのケミカルメディエーター遊離に対する抑制機序の検討を行った。
【方法】C57BL/6の骨髄細胞より、常法によって骨髄由来肥満細胞(BMMC)を作成した。BMMCをIgEで感作後PerD, Ac-PerDを作用させ、FITC標識した抗IgE抗体を使用してBMMCに結合しているIgE量を測定した。また、感作後のBMMCにPerD, Ac-PerDを作用させたのち抗原を添加し、Syk, Gab2, p38, PLCγ2のリン酸化をWestern Blot法で検討した。さらに、PerD及びAc-PerDとFynとの結合についてドッキングシミュレーションを用いて計算を行なった。
【結果・考察】IgEの受容体であるFcεRIへの刺激はFynなどのSrcキナーゼ活性化を経てSykやGab2、p38、PLCγ2などのリン酸化により伝達され、脱顆粒やヒスタミン遊離、サイトカイン産生につながる。薬物を作用させていないBMMCとPerDまたはAc-PerDを作用させたBMMCでは、細胞表面に結合したIgE量に有意な差はなかったが、薬物を作用させていないBMMCと比較して、PerDまたはAc-PerDを作用させたBMMCでは、Fynの下流に存在するSykのリン酸化が抑制されていた。そこで、PerDまたはAc-PerDのFynに対する影響をドッキングシミュレーションで検討したところ、PerD、Ac-PerDともFynのキナーゼポケットに結合する可能性が示された。また、Ac-PerDを作用させたBMMCではSykだけでなくGab2、p38、PLCγ2のリン酸化も抑制されていた。以前の検討において、PerDを作用させたBMMCは脱顆粒及びヒスタミン遊離を抑制し、Ac-PerDを作用させたBMMCは脱顆粒やヒスタミン遊離に加え、サイトカイン産生も抑制されていた。したがって、PerDはFynを阻害することでSykのリン酸化を抑制し、脱顆粒やヒスタミン遊離を抑制する可能性が示唆された。また、Ac-PerD はFyn阻害によるSykのリン酸化抑制に加え、さらにGab2のリン酸化を抑制することでその下流にあるp38、PLCγ2のリン酸化を抑制し、脱顆粒やヒスタミン遊離だけでなくサイトカイン産生も抑制している可能性が示唆された。