H2Sは、生体内においてcystathionine-γ-lyase(CSE)、cystathionine-β-synthase(CBS)または3-mercaptopyruvate sulfurtransferase(3-MST)によりL-cysteineから産生される。本研究では、多発性骨髄腫(MM)におけるH2Sの役割を解明して新たな治療法を検討するため、ヒトMM由来KMS-11細胞およびプロテアソーム阻害薬ボルテゾミブ(BTZ)に対する耐性を獲得したKMS-11/BTZ細胞の生存におよぼすH2S産生酵素阻害の影響を調べた。生細胞数はMTT法またはcalcein-AM法で、タンパク質発現量はWestern blotで測定した。BTZは、KMS-11細胞では10-1000 nM、KMS-11/BTZ細胞では100-1000 nMで濃度依存性に細胞数を減少させた。両細胞において、H2S供与体のNa2SとGYY4173は細胞数を僅かに増加させたが、CSE阻害薬DL-propargylglycine(PPG)は 1-3 mMで部分的に、CBS阻害薬aminooxyacetic acid(AOAA)は0.1-1 mMで顕著に細胞数を減少させた。なお、3-MST阻害薬の両細胞における効果は僅かであった。KMS-11/BTZ細胞はBTZ 10 nM存在下でも生存していたが、PPGおよびAOAAにより細胞数が減少し、GYY4173添加によりこの細胞数減少がある程度抑制された。また、既存医薬品でCBS阻害活性を有することが報告されている芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼ阻害薬のbenserazideは、0.03 mM以上でKMS-11、KMS-11/BTZ両細胞の細胞数を著しく減少させた。一方、KMS-11細胞において、BTZ 10 nMを24時間作用させるとCBSの発現量が劇的に増加したが、CSEと3-MSTの発現量は変化しなかった。以上より、KMS-11およびKMS-11/BTZ細胞の生存・増殖は主にCBSにより産生されるH2Sにより促進的に調節されており、benserazideを含むCBS阻害薬を、BTZ耐性を獲得したMMの治療に応用できる可能性が示唆された。