非ステロイド系抗炎症薬NSAIDsは最も汎用される薬物の一つである。疼痛や発熱時には、頓服として、また、慢性関節リウマチ等の慢性疾患では、常用として内服されている。NSAIDsには胃粘膜傷害という有害事象があり、プロトンポンプ阻害薬などの胃粘膜保護薬が併用される。しかし、近年、胃粘膜傷害だけでなく、小腸粘膜にも傷害が及んでいることが分かり、胃粘膜保護薬では治療効果は限定的であり、より効果的な小腸傷害に対する予防、治療薬が望まれている。
我々は、オートファジー欠損マウス及び細胞では、酸化ストレスが高く、酸化ストレス応答の亢進が見られ、これが、NSAIDs起因性小腸傷害の軽減につながっていることを報告している。これは、オートファジーに関連する酸化ストレス応答、ERストレス応答、そして、直接、オートファジーを修飾する等、細胞保護系システムを人為的に制御できれば傷害を防げる可能性を示唆している。そこで、ERストレス応答、及びオートファジーを活性化する前処理がNSAIDs起因性小腸傷害に与える影響を調べた。NSAIDs起因性小腸傷害は、ラット小腸上皮細胞IEC6を用いて、インドメタシン(IM)による細胞傷害性をWST-8法にて、オートファジー活性の変化をウェスタンブロッティング法にて解析した。ERストレス誘導薬Thapsigargin による前処理は、IEC6に対する傷害を有意に抑制した。オートファジーは、栄養飢餓、AMP活性化キナーゼ活性化薬、AICAR,そして、ラパマイシンによって誘導した。これらの処理は、すべて、IMによる細胞障害をほぼ完全に抑制した。どの処理も、オートファジー指標LC3II/LC3I比を高めていた。この効果は、IEC6のオートファジーをノックダウンした細胞、IECshAtg5では、観察されなかった。今回の結果は、NSAIDs投与前に、オートファジーを活性化できる薬物は、小腸粘膜傷害を防御する予防、治療薬となることを示唆している。