【目的】プロテインキナーゼC(PKC)は様々な刺激によりその局在が変化し(トランスロケーション)、局在した部位でリン酸化酵素としての働きを発揮する。一方、我々は、静脈麻酔薬であるpropofolはPKCのトランスロケーションを誘発し、PKCを活性化することを過去に明らかにしている。今回、propofolによるPKC活性化機構の詳細と活性化部位を明らかにする目的でpropofolによるPKCトランスロケーションのさらなる解析と細胞内のPKC活性化の可視化を試みた。
【方法】PKC はconventional PKC(cPKC)、 novel PKC (nPKC)、atypical PKC (aPKC)の3種類に分類される。本検討では、cPKCのPKCα、nPKCのPKCδ、aPKCのPKCζにGFPタグを付加したPKC-GFPをHeLa細胞およびHUVECに一過性に発現させた。Propofol誘発性PKCトランスロケーションは、蛍光顕微鏡下でタイムラプス撮影を行い観察した。細胞内局所のPKC活性化は、C kinase activity reporter (CKAR) を発現させたHeLa細胞を用いて、propofol投与によるFRET現象の経時的変化から解析した。遺伝子導入はいずれも電気穿孔法を用いた。
【結果・考察】HeLa細胞において100μM以上のpropofol投与は、PKC-GFPのトランスロケーションを誘発した。PKCαとPKCδは細胞膜に顕著にトランスロケーションし、PKCδはGolgi体にもトランスロケーションした。PKCζは核膜及び核内へトランスロケーションした。また、Ca2+を除去した状況下では、カルシウム感受性を有するPKCαは細胞膜ではなく核内へとトランスロケーションした。これらの結果からpropofolによるトランスロケーションはPKC分子種特異性を示すこと、一般的な受容体刺激によるトランスロケーションと異なりPKCを核内へと移行する機構が存在することが示唆された。CKARを用いたFRET解析ではpropofolによりトランスロケーションを起こしたPKCが細胞膜とGolgi体において活性化していることが観察された。本研究結果からpropofolは細胞内に浸透しPKCを局所で活性化させ、プロポフォールの機能の発揮に関与することが示唆される。