骨肉腫は、青年期に発症しやすい希少ながんであるが、骨にできるがんの中では最も代表的なものである。今日、技術の進歩により全体の生存率は70-80%にまで増加したものの、転移した場合の予後は非常に悪い。また、現在骨肉腫の治療に用いられている化学療法には毒性や耐性などの問題があるため、より効果的な治療法が求められている。ACA-28は当研究室の独自のスクリーニング法により得られたERK活性調節剤であり、ERKが亢進しているメラノーマ細胞に対して、ERK活性をさらに上昇させることで、正常細胞と比較して有意に細胞増殖を抑制することが明らかになっている。本研究では、ERKの活性化が報告されている骨肉腫細胞に対して、ACA-28がメラノーマ細胞と同様の細胞増殖抑制効果と細胞内シグナル変化を引き起こすかを検証した。
3種類の骨肉腫由来細胞株(KTHOS、LM8、MG63)に対してACA-28を添加し、細胞増殖抑制効果を検証した結果、ACA-28はKTHOS細胞とLM8細胞においてメラノーマ細胞よりも低濃度で細胞増殖を抑制した。一方、MG63細胞に対するACA-28の増殖抑制効果は弱かった。次に、KTHOS細胞とLM8細胞における、ACA-28による細胞増殖シグナルへの影響を検証した。その結果、ACA-28はLM8細胞においては、メラノーマ細胞と同様にERKを活性化させ、アポトーシスを誘導した。一方、KTHOS細胞ではACA-28によるアポトーシス誘導は検出されたが、ERKのリン酸化レベルに有意な変化は見られなかった。このことから、ACA-28はKTHOS細胞個別の細胞内シグナルを介している可能性が示唆されたため、メラノーマ細胞との違いを明らかにすることはACA-28の作用メカニズムを理解する上で重要であると考える。興味深いことに、KTHOS細胞ではACA-28添加によりオートファジーが誘導されていたのに対し、LM8細胞ではオートファジー誘導が見られなかった。オートファジーの働きには、がん細胞に対して腫瘍促進的に働くものと抑制的に働くものが報告されていることから、現在、ACA-28添加により見られたKTHOSにおけるオートファジー誘導が、腫瘍促進的もしくは抑制的のどちらの働きを持つのか明らかにするため、オートファジー阻害剤を併用した検証を行っており、その結果についても報告する。