Pumilioタンパク質は、酵母からヒトまで高度に保存されたRNA結合タンパク質であり、標的mRNAの安定性や翻訳の制御を介して胚発生や神経細胞分化など多岐にわたる生命機能を調節することが知られている。さらに近年ではがんの原因遺伝子であることが明らかにされ、Pumilioには未解明な役割があることが示唆された。Pumilioタンパク質はヒトでは3種存在するのに対して、分裂酵母には9種存在することから、分裂酵母ではそれぞれの分子により細分化された生理的役割があると考えた。当研究室では、分裂酵母のPumilio タンパク質のひとつであるPuf4に焦点をあてた細胞機能の解析を行い、puf4 遺伝子破壊細胞(∆puf4細胞)は通常の生育条件では増殖に影響を認めなかったが、H2O2を始めとする複数の酸化ストレスに対して耐性を示すことを見出した。そこで、Puf4が酸化ストレス耐性に関わるメカニズムを明らかにするために、酸化ストレス応答に重要な役割を果たすシグナル伝達経路とPuf4の関わりを調べた。まず、分裂酵母のストレス応答MAPK(SAPK)経路であるSty1/Spc1シグナルの活性がPuf4欠損により変動があるのか及びを調べた結果、Puf4欠損はSty1 MAPKの酸化ストレス依存的な活性化に影響を与えないことが明らかになった。次に、転写因子Pap1の酸化ストレス依存的な核移行を正常細胞とPuf4欠損細胞で比較した結果、有意な差は見られなかった。そこで、Puf4欠損細胞の遺伝子発現プロファイルに着目した解析を行った。その結果、酸化ストレス条件下において∆puf4細胞では野生細胞と比較してisp4+をはじめとする5因子のmRNA量が顕著に変動していた。そこでこれらPuf4依存的な発現変動を示す因子の欠損細胞を作成し酸化ストレス下での細胞増殖に影響を与えるかを確認したところ、5因子のうち4因子が酸化ストレスに対して正常細胞とは異なる感受性を示すことが明らかになった。以上の結果から、Puf4はこれら4因子のmRNAの発現量を直接あるいは間接的に調節することで、酸化ストレス応答に関与する可能性が示唆された。
本学会では、酸化ストレス応答に重要な役割をもつシグナル伝達経路とPuf4の関わりや、Puf4のRNA結合タンパク質としての機能に注目した研究を展開したので、考察する。