【背景と目的】滲出型加齢黄斑変性は脈絡膜血管新生 (choroidal neovascularization : CNV) を主徴とした加齢性疾患である。滲出型加齢黄斑変性に対して抗血管内皮増殖因子 (vascular endothelial growth factor : VEGF) 療法が第一選択であるが、奏功しない症例も存在する。すなわち、VEGFとは異なる新たな治療ターゲットの探索が必要である。近年、統合的ストレス応答 (integrated stress response : ISR) の異常な活性化が、種々の加齢性疾患の進行に寄与することが明らかとなり、滲出型加齢黄斑変性の病態形成にもISRの関与が推察される。また、ISRのシグナル伝達において、転写因子ATF4 (activating transcription factor 4) が重要な役割を担うことが示唆されている。そこで本研究では、ATF4発現抑制薬であるISRIB (integrated stress response inhibitor) を用いてCNV形成におけるATF4の役割について検討した。
【方法】レーザー誘発CNVモデルを作製し、ATF4の発現及び局在をウエスタンブロット法及び免疫染色法によって検討した。また、レーザー照射直後にISRIB (9.03 pg、9.03 ng/eye) を硝子体内投与し、照射後14日目におけるCNV面積及び血管外漏出を評価した。さらに、ヒト網膜毛細血管内皮細胞 (human retinal microvascular endothelial cell : HRMEC) にrhVEGF (recombinant human VEGF、10 ng/mL) を処置し、eIF2α-ATF4経路の活性化、内因性VEGFの発現変動をウエスタンブロット法及びRT-PCRにて評価した。また、BrdU (bromodeoxyuridine) アッセイ及びスクラッチアッセイを用いて、ISRIB (0.1、0.3、1 µM) がHRMECの増殖及び遊走に及ぼす影響を検討した。
【結果】レーザー誘発CNVモデルにおいて、レーザー照射後3日目にATF4の発現が著明に増大した。また、CNV病変部位でATF4と血管内皮細胞マーカーIsolectin B4が共局在した。さらに、ISRIB (9.03 ng/eye) はCNV面積及び血管外漏出を抑制した。In vitroの検討において、rhVEGF (10 ng/mL) はHRMECにおけるeIF2α-ATF4経路の活性化及びVEGF mRNAの発現を増加させた。ISRIB (1 µM) はrhVEGF誘発ATF4 mRNA発現増大と内因性VEGF分泌亢進を抑制した。また、ISRIB (1 µM) はrhVEGF誘発性のHRMECの細胞増殖及び遊走を抑制した。
【結論】CNV形成には血管内皮細胞におけるATF4の発現増大が関与する可能性が示された。また、血管内皮細胞において、ATF4はオートクリン様VEGFシグナルを介し細胞増殖能及び細胞遊走能を亢進させることが明らかになった。以上の結果より、ATF4は滲出型加齢黄斑変性の病態機序の一つであるCNV形成の制御因子として働くことが示唆された。