肥満の蔓延は急激に進行しており、2025年までに世界の成人の5人に1人が肥満になると予測されている。肥満の進行に伴い、心疾患や糖尿病、高血圧、脂質異常症、がんなどの併存疾患が発症するリスクが高くなる。また、肥満は新型コロナ感染症(COVID-19)を重症化し死亡するリスクが高くなる危険因子であり、肥満対策は緊急の課題の1つである。肥満の治療には食事療法や運動療法が主となるが、効果が期待できない場合、抗肥満薬による薬物療法が必要とされている。しかし、多くの抗肥満薬がその副作用のために市場から撤退しており、近年、副作用の少ない天然物の利用が活発化している。ゼブラフィッシュは、ゲノム配列や臓器の構造がヒトと高い類似性を有し、生体イメージングへの適合、薬物スクリーニングの最適性、動物愛護管理法との調和などの点から、創薬のあらゆるプロセスに活用されている。私たちはこれまで食餌性肥満ゼブラフィッシュを構築し、天然物由来の抗肥満成分の発見およびその作用機序などを明らかにしてきた。肥満ゼブラフィッシュはマウスなどの哺乳類動物よりスループットは高いが、成魚を用いるため100匹/月の試験が限界であり、大規模スクリーニングには不向きであった。そこで我々は、体長1cm程度のゼブラフィッシュ稚魚を用いることでよりスループットの高いスクリーニング技術(Zebrafish Obesogenic Test: ZOT)を開発し、抗肥満作用を持つ天然物を探索した。ZOTは、生後1ヶ月齢体長1cm 程度の稚魚を用い,高脂肪食を1日2回与え、内臓脂肪の蓄積は中性脂肪特異的蛍光色素ナイルレッドを用いて生体染色で評価する。 ZOTとマウス3T3-L1前脂肪細胞を用いて38個の天然物を用いて試験を行った結果、ゼブラフィッシュの内臓脂肪組織では7個、マウスの脂肪細胞においては11個の天然物がそれぞれ脂質の蓄積を抑制、このうちの5つの天然物がゼブラフィッシュと3T3-L1脂肪細胞の両方で脂質の蓄積を抑制した(Nakayama H, et al. Molecules 25, 2020)。さらにZOT、DIO-zebrafish、3T3-L1 adipocyteの3種類の評価法のアドバンテージと限界について総括したので報告する。