【背景・目的】骨組織は、骨形成と骨吸収のバランスにより恒常性が維持されている。前骨芽細胞の細胞増殖・分化は骨芽細胞の成熟において重要な役割を果たしており、骨芽細胞分化障害は骨代謝性疾患の原因となると考えられている。Orai1を介したストア作動性Ca2+流入(SOCE)が骨芽細胞分化を制御することが明らかにされ、骨形成におけるCa2+シグナルの重要性が注目されている。内向き整流性K+チャネル(Kir)は、静止膜電位形成に寄与することでSOCE等の細胞内Ca2+動態の制御に関与すると考えられる。本研究では網羅的遺伝子発現解析の結果からKir2.1の発現が骨芽細胞分化により亢進することを明らかにしている。そこで骨芽細胞分化に関わるCa2+シグナルの調節因子としてKir2.1に着目し、骨芽細胞分化に対する役割について検討した。
【結果・考察】骨芽細胞分化を誘導したマウス前骨芽細胞株MC3T3-E1において、Kir2.1発現が顕著に増大することを明らかにした。Kir2.1発現亢進による細胞膜電位への影響を評価するためにKir2阻害薬ML133(10 μM)誘発性脱分極反応を測定したところ、分化誘導細胞において有意に大きな脱分極反応が生じた。SOCEを介したCa2+流入に対するKir2阻害の影響を検討したところ、分化誘導細胞においてSOCEを介したCa2+流入が有意に抑制された。Kir2.1阻害は、骨芽細胞分化マーカーの発現抑制、マウス胚中足骨の軟骨内骨化を有意に抑制した。また、Kir2.1の発現亢進メカニズムを明らかにするためにmiRNAによるKir2.1の発現制御についてmiRNA阻害薬を用いで検討したところ、骨芽細胞分化にともなうmiR-106b-5pの発現低下がKir2.1の発現を亢進させることが明らかとなった。以上の結果より、骨芽細胞分化におけるKir2.1発現・活性亢進はCa2+シグナルを制御することで骨形成に一部寄与する可能性が明らかとなった。