【目的】統合失調症は人口の約1%を占める重大な精神疾患であり、環境因子と遺伝因子の両因子が発症に関連しているとされているが、未だその病態は不明で、病態に即した根本的な治療法は確立していない。我々は、これまでにRho-GTPase activating protein 10 (ARHGAP10) に稀なゲノム変異を持つ7名の日本人統合失調症患者を同定している。その中で最も症状の重篤であった患者ではArhgap10遺伝子内にコピー数変異及び一塩基変異がみられた。このことからArhgap10ゲノム変異と統合失調症との関係性を調べるために、Arhgap10ゲノム変異を模したモデルマウス (Mt) を作製し、行動学的および組織学的解析を行った。【方法】qPCR法及びin situ hybridization法を用いて野生型マウス (WT) の脳内におけるArhgap10 mRNAの発現解析、WTとMt間における網羅的な行動解析、Rhoシグナルの変化、神経細胞の形態学的変化および神経活動の変化を評価した。【結果・考察】WTにおけるArhgap10 mRNAレベルは、週齢に依存して増加し、8週齢のマウスでは皮質や海馬と比べて線条体、側坐核および小脳で発現が認められた。一連の行動解析を行った結果、MtはElevated plus maze testにおいて不安障害およびMETH 誘発性運動過多・視覚弁別試験において行動異常が観察された。また、Mtの線条体および側坐核では、Rhoシグナルの下流に存在するpMYPT1およびpPAK1が上昇しており、METH投与後のc-Fos陽性細胞数がWTに比べて有意に増加した。さらに、Mtでは線条体及び側坐核神経細胞の突起複雑性およびスパイン密度が増加していた。これらの結果から、Mtで認められる行動異常には大脳基底核における神経細胞の機能的および形態学的変化が関与している可能性がある。