【緒言】テトラヒドロビオプテリン(BH4)は、フェニルアラニン代謝、モノアミンおよび一酸化窒素(NO)の生合成に必須のコファクターである。BH4合成の第3段階を触媒するセピアプテリン還元酵素(SPR)の遺伝子ノックアウトマウス(Spr-/-)は高率に持続勃起症(Priapism)を発症する。Priapismを発症したSpr-/-マウスにBH4の反復投与を行い、Priapismへの影響を解析した。【方法】C57BL6/J-Balb/cバックグラウンドの4-11ヵ月齢オスマウスを使用した。Spr-/-マウスにBH4・2HCl 50 mg/kgとvehicleを10日間腹腔内投与した。タンパク定量はBradford法で行った。モノアミンは、高速液体クロマトグラフィ-(HPLC)-電気化学検出器で定量した。プテリジン誘導体はポストカラム法によりHPLC-蛍光検出器で定量した。チロシン水酸化酵素(TH)、内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)、ホスホジエステラーゼ5型(PDE5A)、神経型NOS(nNOS)をウェスタンブロッティング法で検出した。NO代謝物はNO2/NO3 assay fluorometric kit (Dojindo)で測定した。【結果】Spr-/-マウスPenile homogenate中のBH4およびtotal Biopterin量は、野生型のそれぞれ0.69%、8.1%の低値であり、ノルアドレナリン(Nad)量は、野生型の17.4%であった。eNOS、PDE5Aのタンパク質量にはSpr-/-と野生型で有意差がなかったが、THはSpr-/-で大きく減少し、nNOSは有意に増加していた。Spr-/-マウスのNO代謝物は、野生型の1.59倍の高値であった。Spr-/-マウスへのBH4反復投与ではPriapism症状が有意に改善した。BH4投与群のpenile homogenate中のNad量、BH4量、total Biopterin量は、vehicle投与群のそれぞれ7.12倍、3.58倍、15倍に達した。これに対し、BH4投与群のNO代謝物は、vehicle投与群の46.3%の低値であった。【考察】Spr-/-マウスへのBH4の反復投与により交感神経系の活動が回復し、一方NOの産生は抑制されるため、Priapism症状は改善すると考えられる。