3,4-methylenedioxymethamphetamine(MDMA)は社交性や共感力の増強といった向社会効果を誘導する。この効果にセロトニン(5-HT)の関与が示唆されているが、詳細な神経機構には不明な点が多い。そこで本研究では、社会性評価試験であるsocial approach test(SAT)を用いてMDMAの向社会効果誘導機構を検討した。
 SATでは、1日目は無処置で、また、2日目と4日目はsalineまたはMDMA(5 mg/kg、i.p.)を試験マウス(雄性ICRマウス、6-12週齢)に全身投与した後、新奇マウスを入れたカゴ近傍エリア(social area、SA)での滞在時間を計測し、この時間が長いほど社会性が高いと評価した。
2日目および4日目において、MDMA投与によりSA滞在時間が顕著に上昇する個体と、そのような作用の認められない個体が存在したため、1日目から2日目にかけてSA滞在時間が一定時間以上増加した個体をHighグループ、増加しなかった個体をLowグループに分類した。Highグループでは4日目にも顕著なSA滞在時間の上昇が認められたため、4日目にHighグループのみを使用して各種阻害薬の効果を検討した。
 選択的5-HTトランスポーター(SERT)阻害薬((S)-Citalopram、10 mg/kg、s.c.)をMDMA投与前に全身投与したところ、MDMAによるSA滞在時間の上昇が有意に抑制された。また、5-HT1A、5-HT1B、5-HT2A、5-HT2C、および、5-HT4受容体阻害薬を全身投与したところ、5-HT1A受容体阻害薬のWAY100635(3 mg/kg、s.c.)のみがMDMAによるSA滞在時間の上昇を有意に減少させた。さらに、WAY100635(0.2-0.4 µg/side)を社会性に関与するとされる内側前頭前野、側坐核、あるいは、扁桃体基底外側核(BLA)に局所投与したところ、BLA内投与によりSA滞在時間の上昇が抑制された。
 以上の結果から、MDMAはSERTを介した5-HT遊離促進と、それに続くBLAの5-HT1A受容体刺激によって向社会効果を誘導することが示唆された。