【目的】Reelinは正常な脳構造形成や機能発現に必須な分泌タンパク質であり、その機能低下による精神疾患発症が示唆されている。本研究では、日本人統合失調症患者から同定された新規RELN遺伝子欠失が神経細胞の発達と機能に与える影響を明らかにするため、この欠失を模倣した遺伝子改変マウス(Reln-del)の大脳皮質由来初代培養神経細胞の形態学的・生化学的解析を行った。また、Reelin機能増強が神経細胞に与える影響を明らかにするため、Reelin分解酵素であるa disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs 3(ADAMTS-3)の発現抑制がReelinシグナルカスケードに与える影響を調べた。
【方法】野生型(WT)、ヘテロ欠損(Reln-del+/-)、ホモ欠損(Reln-del-/-)マウスより大脳皮質由来初代培養神経細胞を得た。細胞内ReelinおよびDisabled-1(Dab1)の発現量は、ウエスタンブロッティング(WB)によって解析した。神経突起長と分岐数は、生細胞イメージングシステムIncuCyteによって解析した。神経細胞の機能に関わるスパイン形成能については、樹状突起上のPSD95のクラスター数を免疫細胞化学的手法により解析した。ADAMTS-3ノックダウンがReelinシグナルカスケードに与える影響については、Reelin分解とDab1発現量の変化をWBにより解析した。
【結果】Reelinの発現量は、Reln-del+/-で減少し、Reln-del-/-ではほぼ確認できなかった。Dab1の発現量はWTに比べてReln-del+/-Reln-del-/-で有意に増加し、Reelinシグナル減弱が示唆された。神経突起長、分岐数、スパイン密度はWTに比べてReln-del+/-Reln-del-/-で減少した。ADAMTS-3をノックダウンすると、培養上清中のReelin分解抑制に伴う活性型Reelin増加と細胞内Dab1の減少が確認された。
【考察】Reln-delの初代培養神経細胞では、Reelin発現量減少、Reelinシグナル活性低下、神経形態異常が認められた。またADAMTS-3ノックダウンにより、Reelin分解が抑制されReelinシグナル活性の増強が示された。