認知症の主要な原因疾患であるアルツハイマー病(Alzheimer‘s disease; AD)の中核となる病理は、アミロイドβ(Aβ)・タウ蛋白の異常蓄積であり、これらは神経変性につながる主要因子である。一方、AD脳の老人斑に集簇するグリア細胞の一種であるミクログリアはAβクリアランスや神経炎症に寄与し、ADの病態に関与することが注目されてきている。しかし、AD病態に関わる神経炎症因子とその制御については不明な点が多い。
 本研究では早期AD 病理脳の楔前部およびAD患者脳内のアミロイドの蓄積を忠実に再現するAppNL-G-F/NL-G-Fマウス(App-KIマウス)から磁気細胞分離法で単離したミクログリアを用いて次世代シークエンスを行い、神経炎症関連遺伝子の発現変化を解析したところ、主に免疫関連細胞に発現し、炎症調節に関与するカンナビノイド受容体2型 (CB2) が共通して上昇していることが確認できた。このことから、活性化ミクログリアに対するCB2の機能を解析する目的で、IFN–γを用いて活性化した培養ミクログリアに対してCB2アゴニストであるJWH133を添加した後、炎症性サイトカインの発現変化を定量RT-PCRにより解析した。その結果、IFN–γ処置により上昇したTnf-αCxcl10の発現はJWH133処置により有意に抑制されることが確認できた。さらに、脳内におけるミクログリアのCB2の機能を解析する目的で、5ヶ月齢のApp-KIマウスにJWH133を5.5ヶ月間連続飲水投与し、新奇物体認探索試験を用いて認知機能への影響を解析した。その結果、App-KIにおいて低下した認知機能はJWH133投与により有意に改善することが明らかとなった。また、JWH133連続投与後に大脳皮質を摘出し、磁気細胞分離法でミクログリアおよびアストロサイトを単離し、定量RT-PCRを行った結果、単離ミクログリアにおいて活性化アストロサイトの誘導因子であるC1qや単離アストロサイトにおいて活性化アストロサイトのマーカーであるH-2dおよびPsmb8の発現の低下などが確認できた。
 これらのことからミクログリアにおけるCB2の刺激によりアストロサイトの活性化が抑制され、それによって神経炎症および認知機能の低下が改善されることが示唆された。