目的:米国では鎮痛剤として処方されるオピオイド系薬物の乱用による依存症が蔓延している。オピオイド・クライシスと呼ばれるこの深刻な問題に対してFDAは乱用防止製剤に関する製薬企業向けガイダンスを発表し、様々な乱用防止製剤を認可している。日本でも、鎮痛薬の習慣的使用が問題となっていることから乱用防止製剤が開発されているが、これらの乱用防止製剤は各製薬企業による独自の基準により乱用防止機能を主張するものであり、国内ガイドラインは作成されておらず、科学的根拠も不足している。乱用防止製剤のガイドラインを作成するために、本研究ではオピオイド受容体拮抗薬を配合した乱用防止製剤に対する薬理学的な評価方法を検討した。
方法:実験には8週齢の雄性C57BL/6マウスを使用した。対象薬物は臨床で広く使用されている麻薬性鎮痛薬のモルヒネ、オキシコドンおよびフェンタニルとした。オピオイド受容体拮抗薬を配合した乱用防止製剤のモデル薬物として麻薬性鎮痛薬とオピオイド受容体拮抗薬ナロキソンの混合液を作成した。薬物依存性の評価は、条件付け場所嗜好性試験により実施し、試験薬物は条件付けの直前に腹腔内投与した。
結果:麻薬性鎮痛薬の用量に依存してマウスの場所嗜好性が延長し、生理食塩水を投与したコントロールマウスと比較して30μmol/kgモルヒネ、 3μmol/kgオキシコドンまたは0.4μmol/kgフェンタニルを投与したマウスでは有意な場所嗜好性反応が観察された。モルヒネ、オキシコドンまたはフェンタニルにより惹起される場所嗜好性反応は、ナロキソンを3 μmol/kg、3 μmol/kgまたは4 μmol/kgの用量をそれぞれの麻薬性鎮痛薬に混合して投与することにより有意に抑制された。
考察:乱用防止製剤の効果に関する薬理学的検証試験法として条件付け場所嗜好性試験は有効であることが示された。また、麻薬性鎮痛薬とナロキソンを同時投与した際に場所嗜好性を示さないナロキソンの含有量が乱用防止製剤として効果的であると考えられた。